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君が好きだ

雨がざぁざぁと降っていた。
僕はそれを教室の窓から憂鬱な眼差しで眺めている。
――傘がない。
今朝は寝坊をして天気予報がチェック出来ていなかった。
朝、家を出るときには晴れていたから、まさか夕方になって急激に天気が悪くなるだなんて思ってもみなかった。
そうして大降りの雨を見ながら溜め息をついていると、後ろで教室のドアの開く音がした。
「どうして、まだ残っているの」
「あぁ、君か」
振り向けばそこにはクラスメートの鈴木がいた。
少し大人しいけれども明るくてとても良い奴だ。
僕はあまりクラスメートのことに興味など持ったりしない、所謂『変わった奴』だ。
そんな僕が何故彼の印象だけは覚えているかといえば、単純な話、彼に好意を持っているからだ。
他のただ馬鹿騒ぎをしているだけの奴らと違って、彼は明るいのに控えめで空気の読めるお人よしだ。
だから僕がクラスでわざと孤立していようが孤立してさせられていようが、構わず僕に話しかけてきては他のクラスメートとの仲を取り持ってくれたりする。
最初は煩わしくて仕方のなかったその行為が、いつの間にか温かくてどうしようもなくなっていた。
そしてそんな彼だから、クラスでもとても人気者で、一緒に下校する仲間には事欠かない。
だから今日もきっと彼はとっくに帰ってしまっているのだろうと、そう思っていた。
「どうしたんだい?今日はいつもみたいに早く帰らないんだね」
「君が此処にいるのが見えたから、それで」
「それで?」
僕が首を傾げて言葉の続きを促すと、何故だか彼は少し焦ったような顔をして視線を僕の斜め上に向ける。
「それで、気になったから」
「そう」
彼はそう短く応えて、少し考えるように間を置き、また口を開ける。
「じゃぁさ、僕の傘に入って帰らない?一緒に」
少し照れながらそんな提案をしてきた彼に、思わず僕は顔を赤くする。
「何を馬鹿なことを言っているんだい?男同士でそんな、そんな」
破廉恥な。
僕はそう言って顔を俯けた。
きっと今僕の顔はとてつもなく真っ赤に染め上げられているだろう。
あぁ、こんな反応をしてしまっては彼に不審に思われてしまうじゃぁないか!
彼への想いは学生生活のほろ苦い思い出として将来一人で笑い飛ばすために、胸の内に秘めておこうと思っていたのに。
よりにもよって彼の目の前でこんな馬鹿な反応をしてしまうだなんて。
彼に気付かれなくとも、気持ち悪がられたらどうしよう。
そんな考えが頭の中をぐるぐると廻っていて、いつの間にか目の前に彼が接近して来ていることにさえ気付かないでいた。
「ねぇ、そんなにかわいい反応をしないでよ」
え?と思った時にはもう遅く、反射的に上げられた顔を彼は両手で固定して、僕の唇には何か温かくて柔らかいものが当てられていた。
視界いっぱいには彼の顔。
頭が混乱してもうわけがわからなくなって、それでもさっきより顔が赤くなっていることだけはわかった。
「そんなに固まらないでよ。またキスしたくなる」
キス。
その単語で漸く頭が何をされたのかを理解しはじめた。
つまり僕は彼に接吻をされたのだ。
そして理解した瞬間に僕の身体の力はふっと抜けてしまい、僕は床に盛大な尻餅をついた。
「初めてだった?ごめんね」
「な、なな、なに、なんで」
「好きだから」

すき?すきってなんだっけ。すき、すき。好き?
……好き!?
誰が、誰を!?
まさか、そんな、彼が、僕を?
ありえるわけがない。
だって彼はクラス一の人気者で、それに比べて僕はクラス一の変わり者で。
そんな彼が、こんな僕を、好きになるなんて、そんなはずは。
「好きだよ。君が好き」
あぁ、そんなまさか。
これは夢じゃないのか?
そう思って僕は思い切り自分の頬を抓った。
痛い。夢じゃない。
夢、じゃ、ない。
そう思った瞬間、僕の両目から涙がこぼれ落ちた。
彼の前で泣いてしまうのが恥ずかしくて必死に涙を拭おうとするけど、次々と涙は溢れ出して止まらなかった。
涙で滲んだ視界の向こうで、彼が苦笑したのがわかった。
「ねぇ、返事は今すぐもらえるのかな?」
彼が手を差し出しながらそう問いかける。
僕は彼の手に自分の手を重ねながら嗚咽で途切れ途切れになりながらも、必死で彼に想いを伝える。
「ぼく、も、きみが、す、き。きみが、すきだ。」
彼は笑顔で僕を立たせ、そのまま抱き寄せキスをする。
僕は彼の背中に腕を回して、彼に身を任せていた。
「相合い傘、する?」
「……破廉恥」
ぼそりと呟いた僕の言葉に、彼はまた苦笑した。

雨はいつの間にか小雨になっていた。