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売れっ子ホスト×しがないキャバクラ
(烏龍茶×緑茶)

 きゅ、きゅきゅ……グラスを拭く音だけが静かに響く。
何時ものように、まだ見習いの店員が閉店後もずっとこうしてグラスを磨いていた。
そしてこんな日に、必ず訪れる男が居た。

カランカランコロン

酒を飲みすぎて疲れきった、この辺りでは人気の店のホスト。
閉店していてもう誰も居ないというのに、男は遠慮なくカウンターに腰を下ろした。
注文せずともホストの手には烏龍茶の入ったグラスが無言で用意される。
何時ものように、それを半分ほど飲み干すと、何時ものように、また、グラスを拭く静かな音だけが室内に響いた。

「……君、本当喋らないんだねえ。俺と一緒に居ると面白くない?」
「いえ、そういう訳では」
それでも目を合わせようとしない店員の襟元を、男はカウンターごしにグイっと引っ張った。
いつもはポーカーフェイスのその店員だが、こうして息の吹きかかる場所まで寄せると、僅かに動揺する事をこのホストは知っている。
「俺の顔を見てくれないのって、やっぱり俺がいけてないから?これでも店じゃNo1ホストなんだけどなー」
「あの、いえ……そう言う訳では………」
「うーん、俺ってそんな魅力無い?」
「……はい?」
「こうして毎日口説きに来てるんだけど、君は全く気づいてくれない」

普段見せる軽い笑みではない、静かな微笑みに、店員の表情が固まった。
その動揺を隠すように、店員は近くにあった瓶を手に取り、ホストのグラスに茶を注ぎ足す。
「ご冗談をお客様。しがない店員をからかうのはおやめ下さいな」
小さく浮かべた店員の笑みは、僅かに強張っている。
困惑、しているのだ。
ガラにも無く、客のちょっとした戯れに一喜一憂しそうな自分に。

「あ。動揺してる?」
そのホストの軽い口調が、自分の心臓を跳ねさせる。
何もかもバレているような気がして、店員は益々困惑した。
「まさか。冗談と分かっているものに動揺など……」
「お茶」
「……え?」
「いま君が注ぎ足したの、烏龍茶じゃなくて緑茶だよ」
「……!」

驚いてグラスを見下ろすと、狭いその中で、濃い茶色と静かな緑色が混ざってゆく。
長き歴史を刻む中国のそのお茶に、何処か頼りなく感じる日本のお茶が混ざってゆく。
濃い茶色の液体が、儚く淡い緑を、ゆっくりと抱き込んでいって。

「君を、本気で口説いてもいいかい?」
甘い囁きをその唇に乗せながら、長いホストの指が店員の指を取った。
一本一本、緩やかに静かに絡まってゆく、互いの指。

その瞬間、店員は自分が相手の中に吸い込まれたような錯覚に陥った。
ああ、捕らわれてしまった。この男の魅力に。

そして二つの男は、絡み合うように混ざり合うのだ。



そう、まるでグラスの中のモノのように。