女顔細身青年×マッチョオサーン

繁華街の片隅の超弱小ホストクラブ。
なんとか客がたえない理由は、料理が旨いせいと、No. 1の人気のせいだ。
コックの受介さんは、物騒な上腕二頭筋をした恐い坊さんみたいな人。
実はイタリアの庶民食堂で武者修行した、本物以上の料理人だ。
そんな受介さんの賄いを人外魔境的に貪り喰らうのが、No. 1の攻太だった。
客が見たら驚くだろう、女顔の細い男がよくこんなに食える。
変な青年で、客の機嫌を取っている間と喰っている間以外は、仏頂面で本ばかり読んでいた。
受介さんは、少し厳しく攻太に言った。
「水商売でもこの道で生きてくならもっといい店で自分を磨け。
 自分の人生に野心と、そして責任を持つんだ。それが男ってものだ」
「・・・野心なんか、持ちたくない」
ハタチにもならない青年のその諦観の表情に、受介さんは驚かされた。
「ただ、生きていかなきゃならない。だからこの店は止めたくない」
「……」「受介さんの飯があれば、なんとか頑張れるから」

異変が起きたのは、雨の夜だ。激しく戸を叩かれて、受介さんは飛び起きた。
外には、ネコのキャリーバック(?!)を下げ、グシャグシャの攻太がいた。
「もう、頑張らなくてもいい」「???」「生きてかなくてもいい」
「ばあちゃんが死んだ、貸家も追い出された」
「親にも捨てられた俺を、ばあちゃんだけが心配してくれた。俺が元気なら
 喜んでくれた。ばあちゃんがいないなら、生きてく必要なんかない」
泣きわめく攻太の肩を抱き、口をついて出た言葉に受介さんは驚いていた。
「俺がおまえを心配してる。おまえが飯喰って元気なら俺が嬉しい。
 俺がお前を必要としている。な?おまえは俺のとこにいればいいんだ」

攻太は受介さんと一緒に暮らし、今は仕事の傍ら、ソムリエ資格の勉強をしている。
受介さんの夢は、金をためて、2人で小さなイタリア料理店を開くことだ。
唯一の不満は、攻太(やはり喰ってばかり)に家事の才がまるでないこと。
「エリート会社員にはなれないんだし、家事もできない男は、結婚できないぞ」
「いいよ、俺結婚しないから。受介さんの老後見なきゃならないだろ」
攻太が笑う。つまり、俺は一生こいつの飯を作るってことか?と思いつつ、その笑顔に見愡れてしまう受介さんだった。


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最終更新:2009年06月30日 10:15