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頭のいいへたれ

テスト週間明け初の授業。
俺の手には返ってきた数学のテスト用紙が収まっていた。
(58点・・・まあまあか。)
黒板にでかでかと書き示されているクラス平均点は67点、学年平均点は60点。
特に悔しがるほどの点差でもないだろう、とテスト用紙を机の中へと押し込んだ。
見直しもする気になれず、ぼんやりと周りを見ていると赤点をネタにしている奴や人の点数を聞きまわる奴がいる中、
ある一人の人物に俺の目線はぴたりと留まった。

そいつは不機嫌そうに眉を顰め、口をへの字に結んでいた。目線の先にはテスト用紙。
せっかく俺好みな綺麗な顔してるのに勿体無い。
他の奴ならああ、点数が悪かったんだろう。ドンマイ。程度にしか思わなかっただろうがこいつの場合そうは思えない。
何故ならそいつは定期テストのたびに発表される成績上位者のトップに居座り続けていて、
ありがたくはないがクラス平均を上げる要因となっているやつだからだ。
そういった理由と俺の好みのせいで気にはなるが、そんな立ち入った事を尋ねるほどそいつと俺は交流を持っていない。
どうしようかと少し悩んだが、どうせ何もすることもない。
ついでに正直お近づきになりたいと思っていた俺はそいつのもとへ近寄っていった。

近づいてみると、いかにこいつが不機嫌かが空気を通じひしひしと感じられる。
少し引き返そうかという気にもなったが、ここまで来て声をかけないというのもあれだ。思い切って声をかけた。
「どうかしたのか。」
「・・・君か。」
不機嫌な雰囲気に妨げられて届かないかと不安だったが、どうやら俺の声はちゃんと届いたらしい。
テスト用紙から目線を上げ、眼鏡越しに合ったそいつの瞳からも不機嫌オーラが駄々漏れしている。
「大丈夫か?目、死んでんけど。」
「別に、大丈夫。」
いやいやいや、嘘つけよ。
その態度に多少行儀が悪いと思いながらも、そいつの手元のテスト用紙へと視線を滑らせた。

・・・心配して損した。用紙の右上、赤ペンで堂々と書かれた数字は98点。俺と40点も差がある。
「不躾だな。」
俺の視線に気づいたのか、独り言のように呟かれたそいつの言葉に俺は反撃のように言い返した。
「そんな不機嫌そうだからどんなひどい点数かと思ったら98点て・・・。頭いいやつの思考は理解できねえな。」
「・・・違う。」
「・・・別に『俺、頭良くないよ』的な謙遜とかいらないけど。」
「馬鹿か、そうじゃない。」
言いにくそうに俺から目線を外し、再びテスト用紙を見つめたそいつを俺は辛抱強く待つ。
ほんの少し、そいつが握ったせいでできた用紙の端の皺の12本目まで数えたとき、
「・・・違うんだ。」
「だから何が。」
「俺は本当は100点のはずなんだよ。」
俺は用紙に書かれた98点の字を見直し、そしてそいつの横顔を見た。
「・・・俺、98点でも立派だと思うぜ?」

「べ、別に負け惜しみとかじゃない!そんな目で見るな!」
傷つけないようにと心遣いあふれる俺の言葉に、そいつの頬がほんのり赤くなる。
「ここ!問い7の(1)の解法は先生の説明したやつだけじゃなくて俺の書いたやつでもあってるはずなんだ!」
指差された先、見ると見覚えのない公式が綺麗な字で書かれていた。
「先生の採点ミスだ。これも正解のはずだから本当なら俺は100点満点のはずなんだ。」
わかったか、というように今度は挑むような目で俺を見つめてくる。
その意気を先生に向けてこいよ、と思う反面、その目線に思わずぞくっとしてしまう。
いかん、クラスメイトに欲情してしまうとは。
邪念を振り払うように口を開いた。
「じゃあ、採点ミスだって申し出ればいいじゃないか。」
するとせっかく治まりかけていた頬のほてりが先程よりも増してぶり返したようで、
ついでに耳まで真っ赤にして「それは、」とそいつは言った。
「恥ずかしいし、かっこわるいじゃんか・・・。」
さきほどの態度とは打って変わってぼそりと一言。
俺の反応から逃げるように伏せられた顔と眼鏡のせいでそいつがどんな表情をしたかわからない。
(なんだ、その理由は!)
2点のためにあんなに悔しがっていたというのに、そんな馬鹿らしい理由で諦めるのか!
俺は自然に浮かんでくるニヤニヤ笑みを我慢する事が出来ず、思わず口元を手で覆う。
「このへタレが。」

これが俺の片思いの始まりだった。
それから俺の水面下の努力は続き、数ヵ月後無事結ばれる事となった。
そしてこいつのこのヘタレっぷりは学校生活のみでなく、ベッドの中で思う存分発揮される事となる。