クレーマー×店員
「笑えよ」
ああ、また来た。
いつもの客。
少し目を細めるような、しかめた表情で俺を見る。
もう、やめてくれ。
「いらっしゃいませ……」
「違うだろ」
もう、やめてくれ。
あんたがそうやって俺を見るたびに、俺のどこかが、ズキリと痛む。
胸の深いところが。
俺が嫌いなのは分かっているけれど。
それなら、もうこの店に来なくていいから。
俺の胸をどうか……騒がせないでくれ。
「マックでさえ笑顔くらい0円だってのに、ンなしけたツラ見せてんじゃねえよ」
ぐい、とつかまれる腕。
嗚呼。
殴られるのか。と思った。
「ごめ……な、さ……」
「泣き声なんて」
乱暴に腕を引かれ、身体が傾ぐ。
傾いだ身体を、カウンター越しに抱きとめられる。
強い腕。
熱い、熱。
恐怖と……そして悲しみに胸が悲鳴をあげる。
「聞きたくねえんだよ」
ごめんなさい、ともう一度謝りかけた俺の声は、彼の吐息の中に飲み込まれた。
しかめ面なんてしていなければ、いい男なのに。といつも思っていたはずなのに。
今はこの表情が、他の何よりも妖艶に見えた。
最終更新:2009年05月31日 21:49