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出版社営業×本屋バイト

また来てるよこの人。このクソ暑いのに背広着ちゃって。
あーあ、顔なんか真っ赤。背中もぐっしょり。見苦しいなあ。
客もイヤな顔してる。レジの前邪魔だよ。どけって。暑苦しさがうつるんだよ。
どうせまた追い返されるだけなのに、まったく迷惑な人だ。

「暑いですねえ」
なんで俺に話しかけんだよ。なんだその笑顔。
顔見知りになったからっていいことないぞ。俺はただのバイトだ。誰にでも媚売るなよ。

ていうか、アンタだっていい加減分かってるんだろう?
聞いたことも無いようなドマイナー作家のエッセイなんて売れるわけないって。
そんなヤツのために走り回って、頭下げて。笑顔振りまいて。なにやってんだよ。
アンタ本当にそんな仕事がしたかったのか?

「キツイですね」
彼は困ったように笑った。しまった。いつのまにか声に出していたらしい。
「…最初は正直つまんなかったですよ……でも……」
社員が事務所からやってきた。彼は言葉を切る。
そしてなぜか意を決したように、俺を見た。
「だんだん好きになってきたんです。……本が」
照れくさそうにそう付け加えて、彼は赤い顔のまま社員の元に近寄っていった。

今日もきっと、すげなく追い返されるだけだろう。
なら次もまた来る。まったく迷惑な人だ。暑苦しさがうつるんだよ。