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次男

あいつは本当に気に食わない奴だ。
媚び上手甘え上手で先輩たちに可愛がられいつもおいしい所ばっかり持っていきやがる。
今年この陸上部に入部した一年生はあいつと俺の二人だけ。
俺は夏の新人戦に向けてがむしゃらに努力を重ねてきた。
それとは対照的にあいつは努力のかけらも見せずに要領良く生きている。
あいつと倉庫の掃除をしているときに、可愛がられる奴はいいよな、などと皮肉を言ったこともあった。
「俺、次男だから。兄ちゃんいるから甘えたりすんの得意なんだ」
そう言ってへらへらと笑ったあいつが可愛がられる理由がなんとなく分かった気がして、俺にはそれがとても悔しかった。
それでも努力を重ねれば、こいつより、誰よりも頑張れば、誰かが俺を認めてくれる気がした。
だからこの新人戦で一回でも勝って、今までの努力を証明する。
そう思っていた。
遠くに誰かの勝利を祝う歓声を聞きながら、じんわりと視界が滲むのを感じる。
「顔、洗いに行ってきます」
それだけ震える声で伝え、ふらふらと水道に向かう。
悔しい。悔しい。悔しい。
あんなに努力したのに。誰にも負けないくらい頑張ったのに。
努力して、勝って、俺も認めてもらいたかったのに。

「さっきのお前の対戦相手、中学の時県大会で優勝した奴だって」
聞き慣れた声がした。今一番会いたくない奴。
「ま、負けには変わりないけど」
本当に嫌な奴だ。自分より強い奴にばっかり媚びて、俺なんかには。
「お前、初心者から初めてまだ半年もたってないじゃん。
お前いつもすげー頑張ってるからさ、次の試合には絶対もっと強くなるよ」
意味が分からない。なんで俺は抱き締められているのか。
なんで頭を撫でられているのか。
「大丈夫。俺が保障するから。な?」
なんで俺はこんなに安心してしまうのか。
「俺、次男だから。弟いるから甘えられたりすんの得意なんだ」
へらへらと笑うあいつが憎たらしくて、あいつの白いシャツを涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしてやった。