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携帯が水浸し!

公園の大きな噴水の縁で、俺はかがみこんだまま凍りついた。
胸ポケットから滑り落ちた携帯が、浅い水盤の底で揺らめいている。
袖が濡れるのも構わず、慌てて水の中に手を突っ込んで助け上げた携帯は、
完全にお亡くなりになっていた。

あいつと喧嘩をして、携帯だけを引っ掴んで飛び出した。一刻も早くあいつ
から離れたくて、上着も鞄も置いて、靴のかかとを踏んだまま走った。
むかついて、悲しくなって、あいつとよく昼休みを一緒に過ごした公園に
電車に乗って来て、噴水の縁石に座った。そこまでは良かったんだ。
何の気なしに水面を覗き込んだのが間違いで、いつもは着ているジャケットの
中で大人しくしている携帯は、初めて入れられた胸ポケットからぽちゃんと
水中にダイブしやがった。

踏んだり蹴ったりだ。
俺はため息をついた。
頭も冷えたし帰るかとピッピと携帯の水を切りながら立ち上がった俺は、
そこで初めて事の重大さに気づいた。

「あ!モバイルSuica!Edy...WAON...あああああ!!!」
現金とカード類の入っている財布は鞄の中だ。
交通系カード機能とありとあらゆる電子マネーアプリを突っ込んだ俺の
携帯はむしろメイン財布とも呼ぶべきもので、関東近郊では店さえ選べ
ば不自由なく過ごせる。
だからこそ携帯だけを持ってこんなところまで来れたわけだが....
慌ててポケットを探る。ハンカチ以外入っていない。
わずかな期待をもって周囲に目をやると、噴水の中にコインが数枚。
ここはトレビの泉じゃねえぞと思いつつも、非常事態なのですみませんと
片手を立てて誰かに言い訳して電車賃には足りない数枚のそれを拾った。
これで誰かに電話して、金を貸してもらって...って、その誰かの携帯番号
は携帯のアドレス帳の中じゃねえか!
実家の電話番号は...って実家遠すぎるし!自分の携帯番号は覚えてるけど
意味ないし!
後は....

「くっぱにごー、おーいいな」
「なんだそりゃ?」
「オレの携帯番号。こういう風に自分の携帯番号を書類に書くこと多い
から、語呂合わせで覚えてんだ」

レンタルビデオの入会書類を書きながら、自慢げにそう言ったアイツの
能天気な顔を思い出す。

ああ、しょうがない。
しょうがないよな、アイツの電話番号しか思い出せないんだから。

俺は公衆電話を探すために歩き始めた。