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我は海の子

何も考えずただひたすらに車を走らせる。
もうすぐ日付が変わるというのにやけに明るい東京の街に嫌気がさす。
時々自分は何をやっているのだろう、と疑問に思うときがある。
若い頃の漠然としたでっかい夢とやらのために東京の大学に進学した。
気付けば無難な会社に就職し、無難に毎日を送っている。
目標もない。守るものもない。
そんな自分がたまらなくいやになっては、車に乗り込みなにかを探すかのように深夜の東京を走る。

二時間ほど走っただろうか。
うるさい程に明るく賑わっていた辺りは真っ暗になり、目の前には夜の海が広がっていた。
波の音。潮の香り。
ふるさとの小さな家を思い出す。
田舎では遊ぶ場所がなかったのと家が海に近かったせいで、毎日のように海で遊んでいた。
楽しかったことも、悲しかったことも、
子供時代を思い返すといつもそこには海がある。
冷たい夜の潮風が僅かのあいだ時間を戻す。
東京に来る前日の夜も俺は海に居たんだ。
幼稚園から高校までずっと一緒だった奴と。
あの海で一緒に遊び、一緒に怒られ、
一緒にあの海に育てられた奴と。
中学生のときに見つけた、海が一番綺麗に見える大きな岩に二人座って、
別れを惜しむ素振りなんてまったく見せず夢を語り合った。
この町が好きだから職人になってこの町の伝統とか良いところを広めたいんだ、という奴の立派な夢とは対照的に
東京行ってビッグになって、大金持ちになるからな、なんて曖昧で馬鹿げた夢を語った俺に
もしほんとに金持ちになったら俺が嫁に行ってやるよ、と笑った奴の顔が頭に浮かんだ瞬間
頬をつたう自分の涙に気付いた。