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女顔がコンプレックスな攻め

一年前、職場に新人が入ってきた。
大学出たてほやほや。俺の初めての後輩だ。
「──今はまだ未熟ですが、早く成長して有能な社員と呼ばれるように頑張ります!」
意欲的な、でも緊張で少々たどたどしい、誠実で初々しい挨拶に
好感を持たなかった奴はいなかったと思う。
教育係は別のベテランがついたが、俺もできるだけこの後輩、矢野に目をかけた。
簡単な書類の書き方でも教えれば、クリクリお目々を輝かせて
「ありがとうございます、石田さん!」
なんてニッコリ微笑む。
壁に当たったのか何やら真剣に考え込む姿には、アドバイスの一つも与えずにはいられない。
ああそうか。ある日急に思い当たった。
こいつ、顔が可愛いのだ。
間近に見ればヒゲもある、骨格のやや尖る、粗い肌を持つ成人男性であることに
間違いないのだが、遠目で見ると一瞬女の子に見える……気のせいじゃない。
まつげビシバシ。大きな目。ツヤツヤ桜色の唇。
なんじゃこりゃあ。うつむく横顔はまるで乙女の風情だ。
何で今まで気づかなかったんだろう。こいつ可愛い。
気づいてからは、うっかり今まで以上に可愛がってしまった。
だって、普通に後輩としても十分可愛い奴なのだ。
先輩をたてる事を知ってるし、教わり上手のおごられ上手、甘え上手だがけじめはあるし。
「石田さん、さすがですね!」
なんて言われると、おだてられてるのかと思いつつその気になる。
そんなわけで、ついつい目をかけた。可愛がって育てた。
仕事のノウハウも、美味い飯屋も秘蔵の合コン先も、みんな教えた。
そうして一年。立派に育ったと思う。もはや奴も新人ではなく、一人の若手だ。

なのに今年の歓迎会。
新たな新人を迎えた席で、幹事である矢野にうるさく世話を焼いてしまった。
「石田さん、ありがとうございました、ですが」
内輪の人間で流れた3次会を2人で帰っていると、初めて聞いたかもしれない堅い声。
「ビールの本数、乾杯の人選も二次会のセッティングも、大丈夫でした。
 だから次回はそっと見ていていただけませんか。僕も成長したと自分では思うんです。
 ……それとも、僕はやっぱり頼りないですか?」
「いや、いやいや、そんなことはないんだけど。お前はよくやってると思うんだけど」
汗が出た。
「その、なんだか、気になっちゃったんだ」
「石田さん、僕に『もうお前は新人じゃないぞ!自信もってドーンといけ!』って
 言ってくれましたよね?」
「そうなんだが……何でかな」
「……僕、こんな顔してるから」
強かった口調が急にトーンダウンした。
「よく言われるんです。頼りなさそうに見えるって。
 昔、女の子にも、あなたみたいな顔の人とは付き合えないって言われたことがあります」
それは、ひょっとするとヘタな女の子より可愛いからなのでは?
「正直コンプレックスですよ、顔のことは。本当は、可愛がられるより可愛がりたい方です。
 僕より可愛い人を抱きしめて、優しくしたい。可愛がりたい」
それは……そうだろうな。でもお前より可愛い女なんて、高望みじゃないか?
しかし、そんな理由で彼女のなり手がいないとは。
「……意外と可愛いのも楽じゃないんだな……」
「……石田さん、体育会系なのにちょっと天然入ってるお茶目な石田さん。
 僕には、石田さんのほうが僕よりずっと可愛い人に思える。
 僕が……石田さんを……可愛がるってのは……駄目でしょうか?」
言われている意味がわからない。わからないまま抱きしめられた。
こいつ、案外と鍛えてやがる。女の子みたいなのは顔だけだったらしい。
「石田さん……可愛いです」
ささやかれて、真っ赤になった俺の方が女の子みたいだ。