※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「恋は本屋さんで売っている」

本というのはそれ自体、編集者と執筆者の緊張した恋の駆け引きの産物とも言えるわけだが。


時には、古本屋の奥の書棚にひっそりと隠された恋もあって、其を手にした青年を引き込む事もある。
其も、あまり誰も手に取らないようなお難い哲学の学術書なんかにそっと誰かが書き込んだ苦しい想いとか、
或いはページの間に密かに挟み込まれた恋文の様な栞とか。
其を見付けた青年はドキドキしながら、暫く前の所有者に想いをはせ、其の本を慌ててまた書棚に戻す。
数日後、青年が再び本屋に訪れると、予想通り其の本はまだ売れずに残っている。
そっと広げる。
と、どうした事か以前には無かった筈の別の書き込みや、新しい栞がはさまれていたりする。
誰か自分の他にこの本を手にした者がいるのだと、よけいに胸を騒がせながら新しい書き込みを読んでみると、其がどうやら自分に宛てて書かれたものの様な気がしてきて、頬を染めながらまた本を書棚に戻す。
次の日も、また次の日も、また新しい書き込みが見付かり、青年は其が自分宛てではとの疑念を益々強くする。
そして、誰かが、この本を手にしている自分を見ていてこんな事をしているのか、こんな古風な通信手段を使うのは一体どんな奴だと思いながら、たまらなく心惹かれていく。

其の書き込みの主は、こうして、出会う前からもう恋に落ちてしまった青年を、果実の如く実の熟すのを待って、自分のものにするだけだ。