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愛馬

夜の闇をつんざく呼子の音に、僕は飛び起きた。
夜襲だ。
直後に、抑える必要がなくなった敵のときの声が驚くほど近く
で、とどろくように上がった。
馬番の寝所は厩の隣。息も凍るような寒さの中、上着を羽織る
のも忘れ駆け出し、厩に飛び込み、入り口にある領主様の馬具を
抱き上げる。
他の馬達が外の騒ぎに鼻息荒くざわめく中、入り口に一番近い
柵の中の領主様の白馬は泰然としていた。
僕と目が合うと、早く鞍をつけろと催促するように前足を掻いた。


国王様から贈られた外国の白馬はとても大きな体をしていた
けれど、とても気難しくて何人もの馬番を蹴り飛ばして怪我
させていた。
馬番見習いだった僕に白馬の世話が回ってきたのは、馬番として
たいして役に立たないから蹴り殺されても惜しくないからだった
のだと思う。
「汗を拭いておけ」と布を渡され、厩で初めて白馬の前に立った
時、白目が見えるほど大きく開いた目でぎろりと見下ろされ、
僕は困ってしまった。
こんな風に敵意満々の目を向けられているのに、近づくなんて
無理だ。
仕方が無いから、僕は白馬に話しかけた。

こ、こんにちは。
僕は君を見たことがあるよ。
前の戦いを終えて砦に帰って来たとき、領主様を背に歩いていたよね。
他の馬も騎士も、疲れてヨレヨレだったけど、領主様も君も、返り血に
濡れながらも胸を張って堂々と歩いていた。
とても格好よかったよ。
領主様はね、とてもお強いんだよ。ああ、君は間近で見知ってるか。
じゃあ、君は知ってる?領主様はね、とてもお優しいんだ。
ついこの間までいた前の領主様は、子供にひどいことをする人だったんだ。
僕も、ひどいことをされた。他にもそんな子供達が一杯いて、ひとところに閉じ込め
られてたんだ。
でも、今の領主様はそんな前の領主様をやっつけてくれて、僕達をそこから
出してくれたんだ。望む者には砦の仕事も与えてくれた。
ね?お優しい方だろう?

つい興奮して大きな声になった僕は、白馬に鼻を鳴らされて我に返った。
白馬はいつの間にか、僕をにらみつけるのをやめていた。白目が見えなくなった
黒い瞳は、穏やかに僕を見つめているように感じられた。

僕は、早く一人前の馬番になって、領主様のお役に立ちたいんだ。
だから、蹴らないでいてくれると嬉しいんだ。君に...触れてもいいかな?

僕が言うと、白馬はその鼻面を僕の顔に押し付けてきてくれた。

以来、領主様の愛馬は僕の担当になったのだ。


他の馬番や騎士見習い達が次々駆けつける中、僕はいち早く
白馬に鞍をつけ終わり、厩から引き出した。
直後、領主様の声が聞こえる。
「おのれ、裏切りかっ!!誰か、馬をもて!」
「はいっ!!」
僕は叫んで白馬と共に領主様の下へ走った。