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お屋敷のお坊ちゃま×下町のガキ大将

 俺は暴君だった。弱い奴はいけすかなかった。
 腕力で強い奴が一番この世でえらいと思っていた。

 転校生は俺よりも背が低く、色白で、ひょろりとやっと立っているように見えた。
 そいつは町外れのお屋敷のお坊ちゃんで、父ちゃんが世話になっているから、
くれぐれも失礼のないようにと母ちゃんから言われていた。

 俺は貧乏だったから、いつも破れた着物を着て、泥だらけの下駄を履いていた。
 そいつの皺のない洋服や、光沢のある靴がたまらなく気に入らなかった。
 奴を落とし穴にはめたり、相撲と称して投飛ばしたり、持ち物を盗んだ。
 奴は何も言わずに、落とし穴から這い出て、自分で怪我の手当てをし、先生には忘れましたと言っていた。
 とても強い奴だった。

 たまらなく自分がつまらない人間に思えて、俺は彼に謝った。
 彼は驚いていたが、「無視されるよりよっぽど良かったよ」と笑って言った。

 彼が愛人の息子だと知ったのは、それからしばらくしてだった。
 田舎だったからそんな噂はあっという間に町中に広まって、彼はどこに行ってもひどい目にあった。
俺なんかよりも、皆残酷だった。
 俺は彼と一緒に行動し、彼と一緒にひどい目にあった。その分少しは彼が楽になるといいと思った。

 夏になっても彼は長袖を着るようになった。
 理由を聞いても言わなかったが、袖から痣や火傷が見えた。
 誰にやられたのか聞いても、彼は何も答えなかった。

だんだんと俺は成長がとまり、彼の方が体格がよくなっていった。
 誰も彼を暴力で押さえつけられる人間はいないと思うのに、彼の痣や傷は消えなかった。
やっているのは家族だとやっと教えてくれたのは、ずいぶんたってからだった。
「無視されるよりずっといい」
 そう思って、ずっと耐えてきたらしい。

「どうしてお前は逆らわないんだよ。俺はくやしい。くやしいぞ」
 そう言ってボロボロと涙をこぼすと、彼はそれを手ですくい、俺に言う。
「君がいるから、耐えれてる。とても感謝してる」

 どうしても、俺は彼を守りたかった。今の俺の力ではどうにもならないものたちから。

 今、俺たちの手には小さな荷物と小額の金と列車の切符がある。
 彼は最後まで断った。俺に迷惑をかけるわけにいかないと。
 でも俺は暴君で、お前がついて来なかったら死んでやると脅してついてこさせた。

 神様、今まで悪いことばかりしてきて、こんな時ばかりお願いするのはずるいけれど。
 壊した社は直しました。盗んだ賽銭も倍にして返してます。小便を樹にかけたのは時効にして下さい。
 すべて改心しますから、どうかこいつが幸せになっていけますように。