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高校のAET×英語教師

「僕は好きですよ」
ヤツに流暢すぎる日本語でそう言われてから数日。
何で片言ぶってるんだとか、つっこみたいことはたくさんあったが
その言葉の内容に俺は打ちのめされていた。
深い意味があるわけじゃない。むしろあったら困る。
なのに、思い出すだけでどうして背中のあたりがぞくぞくとしてくるのか。

流暢な日本語を喋れることが判明したその翌日、片言ぶる理由をヤツに聞い
てみると、自分が日本語を上手く喋れないことで生徒たちの英語力を上げよ
うとしているのだと答えてくれた。
確かに筋の通った理由だと納得。慣れない英語で話しかけてくる生徒たち
――大半が女子生徒だったりする――は、見ていて危なっかしさもあるが、
自分の英語で言いたい事を伝え、ヤツとコミュニケーションを取ろうとする
ことで間違いにおびえず英語を話すということにだいぶ慣れてきたように俺
も感じていた。
英語力を伸ばすには、確かに読み書きよりも話すことが重要だからだ。


「…センセイ」
次の授業の準備をしている職員室の片隅で、背中から声をかけられた。
授業の打ち合わせが済み、一段落したところだってのに、まだ何かあった
のか?
「何の用だ?」
「次の授業で使う教材で、読めない字があって。教えてもらえませんか?」
「あぁ…」
コイツ、日本語は喋れてもまだ読み書きには慣れていないらしい。
確かに漢字なんかが混じってるとルビつけなきゃ読めないみたいだしな。
あの一件以来、どうも俺はコイツに対して上手く立ち振る舞えないのだが、
仕事にまで引っ張るわけにもいかず、冷静を装って教材を受け取った。
「どれだ?」
「ここと、ここ…なんですけど」
「了解。勝手にルビふっておくぞ」
「Thanks」
俺がそのネイティブの発音にどれだけコンプレックスを抱いてるのかも
知らずに、嬉しそうにヤツはそう言った。
この前のあの告白まがいの言葉だって、どうせ俺をからかっているだけだ。
教材にルビを振っていると、ヤツの手が視界の端に映りこんできた。
俺のデスクに手を突いておもしろくもない作業を見ているのだろうか。


「よし。こんなもんでいいだろ」
「助かりました、センセイ」
「おう」
教材をまとめて手渡そうと横を向いた瞬間、あの碧眼に視線を捕らえられ
た。
まずい、そう思ったときは時すでに遅く。
「…っ」
深く屈みこんだヤツは、あろうことか俺の手を押さえ、そのまま唇を重ねて
きたのだ。
時間にしてみればほんの一瞬のことだったのだろう。しかし、俺にとっては
ひどく長い時間に感じられた。
息を吸い込んだ瞬間、ヤツの舌が下唇を撫でるように掠め、それから離れて
いった。
周囲に他の教師がいなかったことや、俺のデスクの正面が本やらパソコンやら
で塞がれていたことを、完全にコイツは逆手に取ったのだ。
呆然としている俺を横目に、ヤツは俺の手元から教材を抜き取ると、俺に向か
ってにっこりと微笑んだ。
無常にも、授業の開始を知らせるチャイムが鳴る。
慌てて俺は椅子を立ち、ヤツを追い越して教室へと向かった。

授業の最中、隣にいる男を意識する余り、俺が哀れな道化と化してしまったのは
言うまでもなかった。