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お花見

「私が死んだら、この桜の木の下に埋めて下さいませんか」
ひとけのない真夜中の一本桜を見上げていると素直に本心が口をついて出た。
「執事に頼んでおこうか。そのときは私もお前と一緒にいくから」
「お戯れを。貴方は本家の当主となられる御身ではありませんか」
彼は私をきつく抱きしめた。
「放してっ。誰かに見られます」
「お前は誤解をしている。今までお前が負担に思わぬよう黙っていたが」
「何ですか、とにかく手を放して下さい」
「こんな辺鄙な場所での夜桜見物になど誰が訪れようか。顔を見られると私も恥ずかしいのだ。
このままで聞いておくれ」
「…」
「私はお前を無理やり花嫁に迎えたが、その時点で、本家に関する一切の権利を義弟に譲り渡してきた」
「…!」
私は息をのんだ。なんということを!
「金も仕事も地位も、一から築き上げていくことに何の問題があるのだ」
「でも、そんな…そんな…ご両親様がお赦しになられるはずがございません」
「両親は既に納得している。花見に誘ったときお前が言ったとおり真夜中にこんな場所まで来たのは、
お前が心配していた人に見られることを気遣ってではないのだ。」
「では…なぜ」
彼は私の前で膝をついた。
「なにをなさるのですか。お立ち下さい」
私が彼の正面に倒れこむようにしゃがみ込むのと同時に、彼は私の左手をとり大事そうにみつめながら
静かに告げた。
「この指輪を。私だけのお前に」
そのとき、桜の花のように頬が染まった彼を初めて見た。