人×異形の者

「また今日も残されたのですか。少しはお召し上がりいただきませんと……」
 私は目の前にいる年若い主人にそう言った。
 年若い主人と言っても、年齢は私とそう変わりない。
見た目は若い少年の姿。誰もが憧れる永遠の命。
 彼は自ら望まずして、それに近い体を手に入れている。

 彼は傷だらけの体を長椅子にまかせ、ぼんやりと外を見ている。
 一夜にして白くなった髪は、日にあたると銀色に見える。
 この方の髪は、昔はとても美しく黄金色に輝いていた。

「別にいいじゃないか。餓死してやろうかと思っても、お前がそうさせてくれない。
口から摂取するか、管から摂取するかの違いだけだ」
「……それでは、お下げいたします」
 銀食器を私は片付けた。

「どうされました?」
「腕が痛い」
「ああ」
 腐敗臭がどこからか漂っているのに気がついた。
また『部品』を調達しにいかなければ。

「足はこの間替えたばかりですから、大丈夫でしょう。
たまには外でも歩かれたらいかがでしょう」
 彼の靴紐を結びながら、考える。
 この『部品』は少年のものだったから、きっと長持ちするだろう。

「お前も年をとったんだな。髪に白い物が混じってきた」
「そうですね。もうお仕えして長くなりますから」
「僕を殺してくれ」
「何をおっしゃっているんですか」
「こんなつぎはぎだらけの腐った体で、よく持った方じゃないか。
お父様も地獄で喜んで下さっているさ。お前を責めることはないよ。
永遠の命なんてこの世にはないんだ。だから、僕を殺してくれ。お願いだ」
「出来ません。大旦那様のいらっしゃらない今、この家は坊ちゃまが
いらっしゃらなければ」
「こんな家……どうでもいい……」
「いいえ」
「お前が天国に召される前に。僕がこの世に一人で残っていったい何になる」

 罪深き私が天国になど行けるのでしょうか。
 あなたをこんな体にしたのは、私です。
 私が『部品』を調達などしなければ、旦那様はあきらめて、あなたが神に召されるのを待ったでしょう。
 私があなたが一日でも長く、この世にいて欲しいと願ってしまったから。

「あなたのいないこの世など、私には何の意味もないのです」
「お前に醜い自分の姿などさらしたくない。どうしてわかってくれない」
「私にとっては、今も昔も、あなたはこの世で一番美しい人です」
「どうして……」

 彼の目から大粒の涙がこぼれおちる。

 私は初めてこの家に来た時のことを思い出す。
 薄汚れた自分にかまわずに、無邪気な笑顔を向けてくれた。

 私はあなたの笑う姿がとても好きだった。


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最終更新:2009年04月11日 19:57