※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

両親とご対面

「はじめまして、赤坂裕です。これ、つまらないものですが、どうぞ」
俺は前日に散々迷いながら選んだ土産の袋を渡した。
お父さんは日本酒が好きだというから手取川の純米吟醸古々酒とフグの
卵巣の糠漬け、お母さんは料理と甘いものが好きだというから煮物に使うと
照りが良くなる俵屋のおこしあめと、浦田の花くるみ。
俺たちの住む金沢近郊の物で揃えてみた。
静岡住まいの仁史のご両親には、珍しいものだろう。(仁史は「土産?
実家に帰るのにそんなものいるか!」というタイプだし)
「まあ、ご丁寧に」
お母さんがにっこり笑って袋を受け取ってくれて、その重さにちょっと
目を見張る。
「あら。こんなに気を使ってくれなくてもいいのよ?お父さん~!
お土産いただいたわよ~!」
「お~お~。すまんなあ。まあ、遠慮なく上がりなさい」
居間から顔だけを出してお父さんが言う。
「応接間じゃねえの?」
先に靴を脱いで上がりながら、仁史が言う。
「これから家族になろうって人なんだから、こっちだろうが」
お父さんの声が聞こえてきた。


「本当にねえ。この子が『俺、ゲイだから一生結婚できない。一人で生きて
一人で死ぬ』って宣言した時は大騒ぎでねえ」
居間のコタツでとりあえずお茶を飲みながら、お母さんが言った。
「こっちは、ゲイもニューハーフも区別がつかなかったからなあ。『俺は
娘を持った覚えは無い!』って言ったら、『それ違う』って笑われたなあ」
あっけらかんとお父さんが笑う。
「それから、色々話し合って、色々勉強して。このご時世だ、結婚できない
まま四十・五十になるのも珍しくないからいいかとは思っていたんだがなあ」
「この子、一人っ子でしょ?私達もこの歳だし、私達が死んだ後、この子が
一人残されると思うと、かわいそうでねえ。もう、男でもいいから、この子と
一緒にいてくれる人がいればねえって...」
「おい、男でもいいからは、赤坂さんに失礼だろう?」
「あら。ごめんなさいね」
「いえいえ...」
笑い返しながら、まさか、こんな風に歓迎されるとは思っていなかった俺は
少しばかりくすぐったいような気分だった。
「親父、赤坂さんも問題だぞ。これからはこいつも畑中になるんだから」
「じゃあ、裕さんって呼ぶのね」
「この歳で、息子が増えるとは思わなかったな」
「いや、裕は俺の養子として届けるんだから、増えるのは孫だぞ」
「なんなら、私達の養子として届けてもいいのよ?」
お母さんの言葉に驚いて、俺たちは顔を見合わせた。


「親父もお袋も、裕とは初対面だろうが。どんな人間かも分からないのに、
そんな思い切りの良すぎることを...」
「どんな人間かはわかってるぞ。俺の息子が生涯の伴侶と決めた人間だ。
良い人に決まってる」
「裕さんは、私達の息子になるのは嫌かしら?」
「嫌だなんてことないです!嫌じゃないですけど....男の俺に...そんな、
そこまで....」
気がついたら胸の辺りに熱いものがこみ上げてきていて、俺は言葉に
詰まってしまった。うつむいて目頭を親指で拭うと、思いがけない量の
涙が指を濡らした。
「嫌じゃないのなら、考えてみてね。さて、お夕飯の準備をしましょうか。
お父さん、手伝ってね」
「おう。遠路疲れたろうから、お前たちはゆっくりしてなさい」
二人が居間を出て行くと、隣の仁史がそっと俺の肩を抱いてくれた。
「まったく、親父もお袋も、いきなりあんなこといいだすんだから、困った
もんだよな。びっくりするよな」
俺は、仁史の手のぬくもりを感じながら、涙で濡れた指を握り締めた。
息子でも孫でも関係ない。届けなんかなくても、法律的なつながりがなく
てもいい。
俺が愛する仁史を愛するこの人達を、俺は一生大事にしよう。
そう心に誓った。