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夜の図書館


既に書いてらっしゃる方がいるのに何ですが、時間切れの後にテーマを見て萌えたので。



窓から差す月明かりと非常灯だけが頼りの夜の図書館。入口からも窓からも死角になる棚の間で人を待っていた。
「…吉井先輩」
「仲原…、」
仲原からのキスで言葉が遮られた。止めようとしたが、久々の触れ合いは心地よく、結局しばらく身を任せた。
「、こら、駄目だ」
仲原が舌を入れようとするので、俺はさすがに慌てて仲原を押し退けた。
「…じゃあ、どうして僕らはわざわざこんな夜中に、暗い図書館で逢い引きなんてしているんですか」
「嫌らしい言い方をするなよ。噂になると面倒だからだろう…前に退学させられた生徒の話、聞いたことないか」
背の高い本棚に押し付けた俺の体にしがみつきながら、仲原がぴくりと身じろぎした。
「…確か先輩と後輩が付き合っていて、先輩の方だけ退校処分になったとか。下級生に手を出したという理屈で」
二人は好き合っていたらしいのに、乱暴なことをする。どうも権力者だった下級生の親が学校に怒鳴り込んできたようだ。
「分かってます…でも僕、先輩のことが好きで、堪らなくて…!」
仲原が胸に顔をすり寄せてくる。俺は子供をあやすように、小柄な仲原の体を腕の中に収めた。

全寮制の男子高校で、こんな関係になる生徒がゼロという方がかえっておかしいと、俺は思っている。
まさか自分がその当事者になるとまでは考えてもみなかったけれど。

この学校はどちらかと言えば武道やスポーツに力を入れていて、文科系の人間は肩身が狭い。
元は野球部目当てに入学した俺は、まるで軍隊さながらの練習にすっかり嫌気が差し、
肩を壊したのを機にこれ幸いと部活を辞めて、もう一つの趣味だった読書に勤しんでいた。
教育方針とは裏腹に、この学校には校舎から独立した図書館があり、かなりの蔵書数を誇っていた。
ある日俺が図書館で文学作品をいくつか借りていると、本を山のようにかかえた生徒…仲原を見かけた。
線が細く大人しそうで、いかにもこの学校に向かない少年。気になって次に会った時に声を掛けた。

同じ本好き同士話が合うかと思ったのだが、予想外だったのは仲原が借りていたのが全て推理小説だったことだ。
社会派推理小説が勢いを失って久しいがここ最近は本格推理が復権してきて云々、
人が殺される小説なんてと眉をひそめる大人が多い中ここの司書は理解があって助かる云々…
仲原はここぞとばかりに薀蓄を語った。内容はさっぱりだったけれど、目を輝かせる仲原の話を結局最後まで聞いた。
こうして奇妙な付き合いが始まった。俺が少しばかり推理小説を齧るようになり、仲原が文学作品を読むようになり、
そのうち、変な噂が立つと困るから夜にこっそり会おうと…こう言い出したのは仲原だ。
…情けないことに、初めてのキスも仲原の方からだった。
お互いの想いには気が付いていたのに、俺は踏み出すことができないでいた。それに、今だって…

「…ん、やめろったら」
仲原の手が学ランの上着の下に入ってきて、俺はまた仲原の動きを制した。
「先輩がキス以上のことをしてくれないから…」
ふてくされたような言い方が、可愛い。
俺だって男なのだから、今以上の関係になりたいという欲はあるが。
「校内で淫行なんて、ばれたら二人そろって退学だぞ」
俺だけならまだしも、こいつの将来まで狂わせるわけにはいかないのだ。
「…今は何を読んでるんだ」
話を逸らそうと、唐突にそんなことを言ってみる。
仲原は、有名な文学作品のタイトルを口にした。
「まだ読んでなかったのか」
「推理小説専門の僕をこっちに引き込んだのは先輩ですよ」
仲原が俺から離れ、俺の隣で本棚にもたれかかった。
「――『恋は罪悪』、ですって」
件の本に出てくる有名な言葉を、仲原は引き合いに出した。
「吉井先輩に会う前なら、わからなかったと思います」
俺も、こいつと会う前にはよくわからなかった。
退学の危険を冒して夜中にわざわざ寮を抜け出してでも、会いたい人間がいる気持ちなんて。

俺は仲原の体を抱き寄せると、そっと口付けた。二人とも、体が少し震えていた。