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夜の図書館


投下が上手くいかず、ニンジャ規制になりましたorz



図書館はいつも隠微な匂いで満ちている。
紙とインクの匂い。埃の積もった匂い。日向の少し黴びたような匂い。
そこに更に雨と夜ふけが重なると、悪徳と頽廃と秘密の箱庭になるのだ。

「……来ると思ってた」
少し軋むドアを開けると、暗闇から掠れた声が響いた。
田舎の古い図書館には、セキュリティシステムなどという気の利いた物はない。
傘立てに入った濡れた傘で、いるのは判っていた。
「来たく、無かった」
ぶっきらぼうに言うと、細いLED電灯の光が閃いた。くすくすと笑う声。
「でも……来たんだ、ね?」
ひらり懐に飛び込んで来た身体は、腕の中に閉じ込めようとすると、するりと逃げる。
「今日こそ、返してくれ」
「嫌だ」
ぱたぱたと足音が書架の後ろに遠ざかる。
「……今日も、10分。捕まえられたら返す。捕まらなかったら……」
光が消え、足音が遠くなる。
この図書館の広さを恨めしく思うのは、こんな時だ。
昼間は整然と並んでいる知識の泉が、今はお前を俺から隠す森になる。
ここは隅から隅まで知っている筈なのに……。
懐中電灯を持つのも、ヘッドライトをつけるのも却って邪魔な()のは、経験上判っていた。
暗闇の中で白いシャツを追う。
せめて書棚がスチール製なら、向こう側へ容易く手を伸ばせるものを。
ーー何故雨の夜なのか。何故この場所なのか。何故俺なのか。
夜の鬼ごっこを楽しむ歳でもないのに、いつもお前の微かに笑う声がする。
ーーもう雨の夜にここに来るのは辞めるべきだ。早く捕まえて終わらせるべきだ。
頭の片隅で、まともな俺が囁く。
ーー何故終わらせないかって?何故ここへ来るかって?
あざ笑うような、哀れむような俺の声がする。
ーー……判っているんじゃないのか?全て。
息が切れ、心臓が千切れそうだ。
いつの間にか、目の前にお前が立っている。
「……10分経ったよ。隆也の負けだ」
「……っ!その、名前でっ……呼ぶな」
後の言葉は和馬の唇で塞がれた。
汗の匂いと、雨の匂いと、図書館の匂い。
水銀燈に引き寄せられる虫のように、和馬の身体に吸い寄せられる。
荒い息の中、俺の身はとうの昔に屹立していた。
「隆也ぁ……隆也ぁ……」
「和馬……和馬……」
暗闇の中、慣れた場所で、互いの服を剥いで獣のように貪り合う。
人で無くなった二人に、雨の音がその音を消し、本の森がその姿を隠す。

平日夕方の図書館は、絵本を借りる親子連れと、暇な学生で、それなりに盛況だ。
「平井さん平井さん、弟さん」
同僚の声に顔を上げると、弟が女の子と立っていた。
「なんだ、和馬。どうした?」
「兄貴。この子がさ、○○の本、予約したいんだって」
差し出された予約申込書を見ると、もう18名ほど予約で埋まっている本だった。
「これ、順番かなりかかるけど、良い?」
念を押すと、女の子の顔が一瞬、戸惑った。
「あ……はい、お願いします」
処理をしている間、女の子が和馬に話しかけている。
「順番先に回したり……して貰えないんだね」
「当ったり前じゃん。特に兄貴なんか真面目だもん。無理って言ったろ?」
弟が鼻で笑っている。
「でも、図書館の司書って本いっぱい読めそうだし、閉館日とかここ独占出来そうで羨ましい……」
「鍵があっても、私用で使う訳ないでしょ。合鍵でも作らない限り……」
そこで和馬は俺の方を見て、ほんの少し笑った。