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惚れ薬


「じゃーん! コレなーんだ!」
「……瓶」
ドアをぶち破る勢いで入ってきた幼なじみが、手にした水色の瓶を見てため息を吐く。
にっこにっこと笑顔を向けてくる幼なじみの晴夜は、さっさと俺の手から雑誌を取り上げるとベッドの上に放り投げた。
「言っても無駄なのわかってるけどな、もうちょっと静かにドア開けらんないのか、お前は」
「いちいちそんなちっちゃいこと気にすんなって! それよりこれこれ!」
人指し指と親指でつまむように持ち直し、晴夜が瓶を揺らした。どうやら中には液体が入っているらしい。液体の抵抗で瓶はゆっくり揺れた。
「何なの、その瓶。っつか中に入ってるやつ」
「何だと思う?」
ニヤリ、と晴夜が笑って、一気にテンションが下がった。これは、確実に、よくないものだ。
「もういい、さっさと持って帰れ」
「ひっでえ! せっかく出雲に見せようと思って持ってきたのに!」
「だってそれ絶対変なやつだもん……」
ぐいぐいと瓶を突きつけてくるのを手で制しながら、座ったままで後ずさる。近い。
「これはー、なんと! ほ・れ・ぐ・す・り、です!!」
瓶を片手に持ち天井に掲げながら、現実味のない名称がその口から出てきた。
「……はぁ?」
気の抜けた返答になったことも、さすがに許して欲しい。
「惚れ薬だよ惚れ薬! 英語でLove Potion、ルァヴポゥション」
無駄に良い発音で不穏な単語を連呼する幼なじみは、いよいよ不思議の国にでも旅立ったのかと思う。
幸い近くにあった晴夜の額に手を当てて熱を測ってみる。
「熱はないみたいだけど」
「出雲、お前……その反応はひどくないか?」
「いや、確実にお前の頭の方がひどいと思うわ」
熱はないし、変な薬でハイになっているわけでもないようだ。手には変なものを持っているが。
「どこで手に入れたそんなもん……」
「……台所で」
「あ?」
ふと、今までの空気を断ち切るような、いつになく真剣な声が返ってきて驚いた。
「水にすこ~しばかりの片栗粉を入れてとろみをつけます」
言ってることはアホ100%だが、反比例するように声は真剣味を増していく。
いつにない幼なじみの反応に、すっと熱が引いていく。
「晴夜?」
「惚れ薬の完成です」
俺の戸惑う声にかぶせながら、最後にふっと柔らかい笑顔を見せたかと思うと、晴夜はそのままぐいっと瓶をあおった。
ほんの数瞬で全て飲み込んだ後、晴夜はじっと俺を見つめた。
気の抜けた様な、何かを静かに覚悟するような、それでいて見慣れた目。
「俺、出雲が好きだ」
するりと出てきた言葉が、脳みそに突き刺さったように感じた。
「お前」
「……でも、別に出雲に同じ気持ちは求めないよ、出雲は惚れ薬飲んでないし」
いつもの調子のいい晴夜が戻ってきて笑う。思わず、腕を掴んでいた。
きっと晴夜は、今を逃せば二度とこんな事を言わない。固まった体のまま、何とか口を動かした。
「……じゃあ、惚れ薬がお前に効いてるうちに、もらう」
自分の少し掠れた声を聞きながら、掴んだ手を力任せに引いて、唇を重ねた。
「俺も……お前がずっと好きだった、晴夜」
惚れ薬が無くても、ささやくと、こんなんが惚れ薬なわけないだろ、と負け惜しみが返ってきた。