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追伸 好きでした


雄太郎へ
お前がこの手紙を読んでいる頃には、俺はもう空の上にいるんだろう。
なんか遺言状みたいな書き出しになっちゃったけど、とりあえず飛行機が落ちないように祈っていてほしい。
物心ついた時からずっと一緒に馬鹿やってたお前とも、もう簡単には会えなくなる。
まあ全然寂しいとかないけどな。むしろ離れられて清々するってのな。
これからはもう夜中にお前のしょーもない電話で叩き起こされて次の朝寝坊しなくて済むし、
俺の部屋にゲームだの漫画だのパジャマだの持ち込まれて散らかされなくて済むと思うと涙が出るほど嬉しいよ。
いい機会だから、お前も自立しろよな。いつまでも俺が世話してやれるわけないんだしさ。
あとそろそろ彼女の一人でも作れって。夏休みもクリスマスも正月も、俺はもう付き合ってやれないんだから。
お前さみしいと死んじゃうだろ。俺がいなくなった途端に死なれたら後味悪いもんな。
なんだかんだ長い付き合いだったけど、それもここまでだ。
基本ウザかったけど、まあ、それなりに楽しかったよ。どんな思い出もお前と一緒だったし。ちょっとキモいけど。
じゃあな、元気でやれよ。

追伸 好きでした。
最後だからついでに書いとくけど。けっこう前から、俺、お前のこと好きだったよ。
だからなんだってこともないから、読み終わったら忘れてくれ。それだけ。

「……なんだよ、これ」
今日を限りに遠くへ旅立つ幼なじみから渡された手紙を読み終えて、俺は思わずそう呟いていた。
そんなの全然知らなかった。なんでもっと早く言わなかったんだ。俺だって人のことは言えないけど。
今更こんな大事なことを、こんなどうでもよさを装って言うなんて、あいつは本当に馬鹿野郎だ。
今更こんなことを知ってしまったら、俺は。
「あー出た出た。さて、そんじゃーそろそろ空港まで送ってもらうかな」
じゃああと水を流す音がして、馬鹿丸出しの台詞と一緒に背後のドアが勢いよく開いた。
行儀悪く手から水滴を飛ばしながらトイレから出てきた康平が、手紙を握り締めて立ち尽くす俺を見て瞬時絶句する。
「なっ、……なんで読んでんだよ馬鹿! 俺が行ってから読めって言ったろ!」
「いやごめん、お前があんまり読むなよ絶対読むなよって言うから……フリかと思って……」
「ちげーよ馬鹿! 素直に受け取れよ! マジで、……うわもう最悪だよ……なんで読むんだよ……」
頭を抱えてしゃがみ込んだ康平を横目に、俺はとりあえず開けっ放しだったトイレのドアを閉めて一息入れる。
さて、この大馬鹿野郎に一体どこから突っ込んでやればいいものか。
「あのさ、大げさだよ。九州なんて飛行機ですぐだろ。東京から3時間。今生の別れじゃあるまいし」
「……んなこと言ったって、そう会えないのは本当じゃん。今までお前ん家まで徒歩3分だったのに比べたら」
「そこ比べんなよ。あとさ、部屋散らかすのはともかく、電話だったら距離とか関係ないし。余裕で叩き起こせるから」
「……そうだけど……っていうかそこは遠慮しろよ。なんで叩き起こすの前提だよ」
「そんで、最後が一番大事なところなんだけどさ」
よいしょと俺も屈み込んで、低い位置から見上げてきていた康平と視線を合わせる。
続きを促すその茹でダコみたいな酷い顔色があんまり見苦しいから、身体ごと無理やり腕の中に抱え込んでやった。
「こんな手紙読まされたら、九州だろうが地球の裏側だろうが、どこにだってすっ飛んでくに決まってんだろ。馬鹿かお前は」
最初から作戦が破綻してるんだから話にならない。まったくこいつは馬鹿だ。それをこんなに好きな俺と、同じくらいの馬鹿野郎だ。
俺の顔も茹でダコ色してるって? 放っておけよ。馬鹿も恥かきも、どうせお互い様なんだから。