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優等生弟×空回り兄


「一彦、悪いんだけど、今日は嗣史の保育園の送り迎えお願い出来ないかしら?」

いつもの起床時間よりも早めに体を揺すられ、母さんに起こされたのは、体調が悪いという母さんからピンチヒッターを頼まれたからだった。

嗣史は、母さんと再婚した義父との間に出来た弟で、高校生の俺とは10歳以上離れている。嗣史の保育園は、俺の通う高校を少し過ぎたところにあるため、普段はパート前に母が保育園へと送る。義父は刑事で、事件があれば昼夜関係なく出ていってしまうので、基本的に母さんがどうしても迎えに間に合わない日などは、俺が迎えに行くこともあった。しかし、朝を頼まれるのは初めてだった。

「じゃあ、母さんの自転車借りるね。嗣の迎えも俺が行くから、今日はゆっくり休んで。パートも休ませてもらいなよ?」

今日は、母の代わりに兄として俺がしっかりしなければ!

放っておくと無理をする母さんに釘を刺し、自身の頬を叩いて気合いを入れ、登校の準備をする。いつもより手早く支度を整え、嗣史を起こし自分で準備をさせる。

「カズくんが起こしに来るなんて珍しいね」

カズくんとは、義父が俺のことをカズくんと呼ぶから、嗣史も自然と俺をそう呼ぶようになっていた。俺はニーチャンって呼ばれたいのに!

「今日は母さん風邪みたいだから、ニーチャンで我慢しろ」

ニーチャンを強調しながら言いながら、俺は台所へと向かう。朝食をと思いトーストを焼きながら、母さんの為にお粥を用意する。

「カズくん、なんかコゲくさいよ」

準備を整えて台所へとやって来た嗣史に指摘されて慌てて振り向くと、黒い範囲が広いトーストが出来上がっていた。
鼻づまりで臭いに気付かず、焦がしてしまったトーストを慌てて皿に移し、新たにパンを乗せて先ほどよりタイマーを縮めて調理をスタートさせる。その時、熱々のトーストで火傷しかけて保育園児に心配される情けない俺。

「嗣、ごめんな?新しいのできるから、もう少し待ってろ」

「カズくん、僕これでいいよ。カズくんもアツアツのパン食べたいでしょ?」

「でも、これ苦いぞ?」

「大丈夫!」

そう言って元気良く食器棚に向かい、バターナイフを取り出してガリガリと焦げ目を削り落としていく。我が弟ながら賢い。そして、弟に失敗をフォローされ情けなく思った。
朝食での失敗を挽回しようと、嗣史を保育園へ送るべく自転車の用意をする。しっかりと安全用にヘルメットを装着し、シートベルトを嵌める。

母さんの運転とは違う、高校生男子ならではのパワフルな走りを嗣史に見せて、兄の威厳を取り戻してやる!

と思い、ペダルを踏み出そうとした矢先、自転車はヨロヨロとバランスを崩して倒れかけた。慌てて足をついて嗣史を乗せた自転車を支える。いつもと重心の違う感覚に、上手く走り出せなかったのだ。

「カズくん、今日は早起きしたし、歩いて行こう?学校行く前にカズくんがケガしちゃうよ?」

自転車が倒れてしまえば、自分だって怪我をするのに、真っ先に俺のことを気遣う。

そんな弟を思わず抱きしめ、兄のプライドと意地を捨てて素直に嗣史に従い歩いて登校することを決める。こんな可愛い弟を怪我なんてさせられるものか!

そんなこんなで、嗣史の手を引きながら保育園までの道のりをお喋りしながら歩く。

「情けないな…」

「カズくん、どうしたの?カズくんもかぜ?」

落ち込んだ姿を見て、嗣史が心配そうに尋ねる。

「違うよ。ニーチャンはさ、嗣くらい小さいときって、カッコイイ兄ちゃんが欲しいなって思っててさ。嗣が生まれたとき、俺は嗣の自慢の兄ちゃんになるんだって決めたんだ。だけど、失敗ばっかだからさ、少し落ち込んでたんだ」

「どうして落ち込むの?カズくんは僕の自慢のおにいちゃんだよ」

「え?」

「カズくん、失敗は誰でもするんだよ?でもね、失敗は恥ずかしいことじゃないって、パパが言ってたんだ。カズくんの失敗した時はね、パパとママと、カズくん可愛いねーって言ってたんだよ」

義父、なんていい事を言うんだ。可愛いは聞き捨てならないけど。と、感動したのも束の間、嗣史から爆弾が投下される。

「それに、カズくんみたいに失敗の多い人は“どじっこ”で、可愛いどじっこは“おれのよめ”なんだよ」

「…は?」

「だからね、可愛いカズくんは僕が大きくなったら、およめさんにしてあげるね!」

と、無邪気な笑顔でプロポーズをされる。

「そ、それも、義父さんが言ってたの?」

返ってくる答えを聞くのは怖いが、恐る恐る訊ねてみる。

「違うよ。保育園のやよいせんせーだよ」

「そ、そうかー 」

はははと乾いた笑いを返しながら、この純真無垢な可愛い弟を、本当に保育園まで送り届けるべきか迷いながら、にこやかに歩く弟の手を引いて通学路を進むのであった。



とりあえず、成長すればそれこそ可愛い彼女でも出来るだろう。


そう思ってそのまま考えを正さなかったために、俺は10年後に後悔することになるのは、また別の話。