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バレンタインデー


唐突だが、俺には恋人がいる。
幼馴染かつクラスメイトである俺たちの腐れ縁は発酵して、爛れて、どうしてか恋愛感情として落ち着いた。そいつも俺も男だが、俺達は立派な恋人である。今日も一緒に下校するため、校門でそいつの部活が終わるまで待っている。
話は変わるが、本日世間はバレンタインデー。店先には様々な種類のチョコレート製品が並び、おめかしをした女子たちがそれをきらきらと輝く瞳で見つめてはしゃいでいる。彼女らが各々の想い人に渡すのであろうチョコレートを購入している姿をなんとはなしに見ていると、隣から大きなため息が聞こえた。
「啓、」
いつの間にか部活は終わっていたらしい。女子たちを眺めている恋人の名前を呼ぶと、彼はこちらに目を向けた。
「華やかだよなあ、おい」
無視して歩きだすと、まてよ、と啓の足音が追いかけてくる。
「あーあ、今年は誰かさんのせいでチョコ貰えねーわ」
「そりゃ悪かったな」
社交的な啓は男女問わず友人が多い。去年まではたくさんの義理チョコを貰っていたし、その中には本命もいくつか入っていたように思う。
今年はどうやら俺の断ってほしいという頼みを、ちゃんと守ってくれるつもりらしい。自然と上がる口角を誤魔化すため、コンビニによる、と告げた。
「なあ、お前が俺にチョコくれよ」
何を言い出すんだと問返すと、啓はにやにやしながら、チロルでいいからとレジの方を指差した。見ると、バレンタインに!と書かれた賑やかなポップとともに、チロルチョコが置かれている。
「買わねえよ」
「けち」
「財布が寒いんだわ」
「チロルがきついってどんだけだよ」
けらけらと笑う啓を横目に、俺は肉まんを購入した。金無いんじゃなかったのかよ!と啓が文句を言い出したので、半分やるから、と宥める。途端に静かになるので、まるで子供のようだと微笑ましく思った。
コンビニを出てから駐車場で、肉まんを半分にして渡してやると、啓は嬉しそうに受け取った。一口齧ってから、
「これ、バレンタイン?」
などと言うから、
「俺らっぽいだろ」
と俺も一口齧る。ありがと、と小さく述べたあと、肉まんに集中した啓を横目で見ながら、完全に渡すタイミングを逃したカバンの中のチョコレートをどうするかとひとりため息をついた。