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真面目×真面目


無遅刻無欠席、校則遵守。何が楽しいのかって? 何も楽しくなんかない、ただ楽なだけだ。
昔から、「高木くんは真面目だよね」とよく言われた。
褒め言葉じゃないって気づいたのは、割と最近。
いつまで経っても友だちができない理由に気づいたのも、同じ頃。

「高木くん」
金曜日の帰り道、俺を呼び止めたのは遠山。こいつも無遅刻無欠席のぼっちだ。
授業で二人組を作る時は余り物同士で組むことが多いが、友人と言えるほどの会話はない。
遠山は休み時間、いつも背筋を伸ばして分厚い本を読んでいる。
周りがどんなに騒いでいようが、たまにつつかれようがお構いなしに。
寝たふりしか出来ない俺とは、大違いだ。
その遠山が、俺に何の用だろう。
「な、なに?」
今日初めて誰かに話しかけられたな、と思いながら振り返ると、
「単刀直入に言う。僕は君に好意を抱いている」
真顔の遠山がそう言った。
俺がコウイという三文字を脳内で変換できずにいるうちに、
「詳しくはこれを読んでくれ。僕は口下手だから」
分厚い封筒を差し出された。
「あの、えっと……」
「返事はできれば欲しいが、急がなくていい。それじゃあ、また月曜に」
それだけ言って、遠山は歩き去っていった。相変わらず姿勢が良かった。
家に帰って、封筒を開いた。何枚もの真っ白な便箋に、大人っぽい字が並んでいた。
周囲に流されない姿に、興味を持ったこと。(流されないんじゃない、流れに乗れなかっただけだ)
英語でペアを組んだ時、よく通る声をしていると感じたこと。(遠山のほうがいい声だと思う)
俺の丸まった背中に、触れたいと思ったこと。(寝ているところを見られていたのが恥ずかしい)
便箋には、遠山から見た俺が、俺の知らない俺の姿が、丁寧に綿々と綴られていた。
『僕は今まで友人も恋人もいなかったので、君への感情が何であるかを掴みかねています。
親愛と好奇心と連帯感と、わずかですが性的なものも含まれているように思います。
それらを己のうちに抱え込むのに耐えかねて、こうして君にぶつけてしまいました。
気味が悪いと思われたでしょうか。それならそれで、構いません(全く動じないとはいえませんが)。
君が僕をどう思っているか、知りたいのです。不躾だとは思いますが、どうかよろしくお願いします。』
手紙は、そんなふうに結ばれていた。
「……マジかー……」
読み終わった俺は、ベッドに突っ伏した。
正直、混乱していた。だってこれ、ラブレターってやつじゃないか?
どうしよう、どうしよう。むやみに顔が熱くなる。
だが、混乱の中でひとつだけわかっていたことがある。
遠山は本気でこれを書いた。
だから俺も、茶化したり誤魔化したりせず、本気で向き合わなければならない。
それが出来なくて、何が真面目だ。
土曜が過ぎ日曜が過ぎ、月曜日。
放課後、俺と遠山は三日前と同じ道を、並んで歩いていた。
「あれ、読んでくれたんだ」
遠山が言う。その声音に安堵が滲んでいることに気づいた。
今なら言える。そんな気がした。
「……俺も、あんまり友情とか恋愛とかわかんなくて。
 ぶっちゃけ、遠山とエロいことするとかは、考えてみたけどあんまり気乗りしなかった。
 でも、なんていうか、お前にとって俺がいてもいなくても一緒じゃない奴っていうのは、
 その……うれしかった、から」
俺達はいつの間にか立ち止まっていて、遠山はまじまじと俺を見ていて、俺はなんとか一言一言を絞り出していく。
「これからどういうことするのかとかは、二人で考えていけたらいいな、っていうか……
 だから、まずは、その、遠山。俺と友だちになってください」
耳たぶまで赤くしながら、そう言って頭を下げた。しばらくして、おそるおそる顔を上げると、
「……っ」
遠山が目をうるませていた。
「え!? ごめん、大丈夫!?」
慌てて尋ねると、遠山は何度も頷く。
「高木くん。僕は今、すごく嬉しい。……ありがとう」
遠山の笑顔を、俺はその時初めて見た。つられて笑いながら、俺は何かが始まる音を聞いた気がした。