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修復不可能の2人


雨宿りついでに、僕の小説について意見を聞いてもいいですか。

主人公は魔法使いです。とんがり帽を被ったり長いローブを着たりはしていません。
人間界で人間と共存する修行にやって来たので高校生の彼は制服を着ています。
さて、主人公は魔法使いとバレてはいけません。面倒ですからね。極力魔法を使わないように注意しています。
しかし、転機がおとずれます。鉄柱の下敷きになりそうだった少年を、主人公は指をパチンと鳴らし、鉄柱を止めて助けることになります。
助けた少年は真っ赤な顔で言います。あんた手品師?魔法使い?俺のこと助けてくれたんだよな……あのさ、惚れちゃったんだけど、と。
そして少年は事件の日から主人公に付きまとうようになります。
口を大きく開いて八重歯を覗かせながら笑う少年を、主人公は兄弟のように可愛がるようになります。
側に居るだけで穏やかな気持ちになります。遊びにいったり勉強を教えたりしているうちに一緒にいる時間が増えます。
けれど、好きと言う少年の気持ちには応えられません。
魔法使いだとバレているからです。いつかは主人公についての記憶を消さなければなりません。
そのことを少年に伝えると少年は泣きます。
魔法使いであることを忘れるのはいい。けれど主人公のことが好きな気持ちも忘れるのか。
答えられない主人公に少年は泣き笑いして、抱き締めてくれる?と聞きます。そのあとで記憶を消してと。
主人公は言われた通りにします。抱き締めた少年の体は可哀想なほど震えています。ありがとう。ごめん。
申し訳ない気持ちで主人公は少年の記憶を魔法で操作します。

次の日から、少年は主人公のところにやってこなくなります。
廊下ですれちがっても目も合いません。声を掛けても不審がられて引きつった笑いを返されます。
八重歯ののぞく屈託のない笑顔は他の友達に向けられます。
そこで主人公は、寂しいだけでなく、苛立ちを感じます。
あれだけ好きだと言ってきたくせに。自分だけを蕩けるような瞳で見つめてきたくせに。
魔法にかけられたくらいで忘れるなよ、なんて理不尽なことと分かっていても苛立ちは消えません。
そこで主人公はようやく気がつきます。認めたくないけれど、もう修復できないけれどーー

「と、こんな感じです。ベタすぎて駄目ですかね」
「そうは思いませんが」
苦笑いする私に、青年は考えるように顎に手をあてた。
「記憶が無くなった少年に、主人公はもう一度関わってみればいいのにと思いました」
「……記憶を消した張本人なのに?」
「はい。記憶を消されても、少年はまた主人公を好きになりたいと思ったはずです」
「そうでしょうか」
青年くすっと笑った。
「魔法使いはなんでもできるのに、何もしないんですね。ヘタレ設定ですか?」
「いや……」
青年は時計を見て眉をしかめた。
「あの、話の途中ですみません。雨が止むまでと思っていましたが、約束に間に合いそうにないので行くことにします」
そう言ってタオルを頭にかける。
「ではこれで。雨宿りに貴方が居て良かった。楽しかったです。あっでもやっぱり主人公は頑張らせてみてもいいと思いますよ」
 青年は、八重歯をのぞかせて笑うと雨の中に消えていった。
「……頑張らせる……か」
私はぽつりと呟いた。
指をパチンと鳴らすと、雨雲が消えて太陽が顔を出した。