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朝にはいなくなる人


待っていた。本当に来るとは思っていなかった。
明かりの消えた暗い室内、街灯なのか窓だけがかすかに白い暗やみの中、長田が立っている。
背の高い、筋肉質がゆえになで肩に見える懐かしい輪郭、間違えようがない。
「長田」
手を伸ばした。起き上がって、触れた。
腕に触れ、手を握る。長田は何も言わない。
何故だか、顔を見ることができなかった。うつむいたまま、長田の胸に顔をうずめる。
あれほどできなかったことが、今できた。この胸に触れたいと、抱かれたいとずっと思ってた。
胸元に口づけ、首に口づけ、あごをついばみ、唇に触れる。
大きくていつも笑ってるような口元、今はためらいもなく噛んで、吸って、舌を入れる。
温かく湿った感触に陶然となると同時、長田の舌が絡んできて心臓が跳ねる。
まさか! 本当に? いいの、長田……
長田の強い腕が俺を抱きしめてきて、舌の動きも激しくなる。
いつしか俺の方はなすがままに、ただ長田の腕の中身を固くするばかりになっていた。
夢だろうか。長田が俺を抱いてるなんて。これは都合のいい夢だ。
頭のどこかが冷めていて、身勝手な俺を戒める。
でも、そんなことに意味があるだろうか? 今さら?
──俺はずっと、こうしたかったのだ、こうされたかったのだ、長田に、長田と。
長田の手がずっと下に降りてきて、俺の腰をまさぐる。
尻なんか感じたこともなかったのに、長田の手が触れると怖いほど敏感になって、肌の表面がチリチリするようだ。
産毛の一本一本が立ち上がって、長田になで回されるのを待って、喜ぶ。
長田の腰に押しつけてたものはもう限界まで固くなって、それでもまだ足りなくて俺は長田の足の間に自分の足を割り入れた。
もっと。もっとぎゅっと、ひとつになるくらいに、くっつきたい。
その隙間に長田の手が入ってきて、狭い間を汗とおかしな体液でぬるぬるにしてしまう。
長田のものも俺のものも、こすり合わされて、ぬめって、滑って、ドロドロに融け合う。
腰が動いて、手も動いて、その複雑な動きが規則的になって、速さを増して。
「長田、長田」
俺はどうしようもなく名前を呼ぶ。確かめる、ここに長田がいることを。
長田が身をかがめ、俺を見た。もう? と。俺は首を振る。この時間がいつまでも終わらなければいい。
ずっとこのままで、長田の胸の中で。俺の腕が長田をつなぎとめたままで。
なのに俺は限界まで高ぶってしまっていて、たとえ長田が俺を刺激しなくても、もう終わり。
「駄目だ、長田、動かないで、出る」
長田にしがみついた。俺の荒い息が長田にかかり、長田は……笑ったようだった。
苦しくて涙が出た。いきたくない。

長田はぎゅっと俺を抱いた。抱いた腕を頭にまわしてよしよし、と撫でる。
それは、俺が馬鹿を言ったときによくしてくれた、子供扱いのむかつく仕草。
それからあっというまに俺をしごいて、俺をいかせてしまった。
「馬鹿、長田、いきたくないって言ったのに!……馬鹿長田、馬鹿が、この」
殴る間もない。俺が生涯にたった一度と思った力でしがみついても、長田は消えた。
「ごめんな」

そうして俺は目を開けた。窓の外は明るく、今日もすがすがしい秋の一日が始まろうとしている。
今日は長田の葬式。全然悪くない交通事故であっけなく死んでしまった、俺の友人の。
昨日は通夜だった。棺の中、永遠に遠くに行った長田を見た。
もっと早く告白すればよかった。もっと早く触れておけば。全てが遅すぎて、俺はもう生きていられない、と思った。
だから夢を見た。自分にだけ都合のいい、死ぬほど気持ちいい、長田を汚すような最低な夢。
でも。
髪に残る手の感触を、俺は一生忘れないから。
俺の胸の中を、きっと長田は読んだんだろうから。
馬鹿だなあ、って笑う長田の声を聞いたような気がしたら、もう駄目だ。
涙は止まらなかったが、俺は立ち上がってクシャクシャの喪服を身につけ始めた。