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君以外みんな死ね


君以外みんな死ねばいい。病室で、僕はそう思った。
君の名前は漢字二文字で、音は三つ。教室に一人はいそうなありがちな名前。
最初の一文字は口をすぼめて突き出すように発する。
だから君が自己紹介をするたびに、キスをねだられているような気持ちになってドキドキしてしまう。
「楠君……もうそろそろ、面会終了の時間です」
邪魔な声は聞きたくない。拾う音は君の声だけだと決めている。
「なあ、坂田。明日も来るから、絶対来るから待ってろよ」
音に合わせて視線を君に合わせる。僕が見たのは、病室から出る君の後姿だけだった。
僕以外誰もいない病室で、声が出ないとわかっていながら唇を動かし君の名前を呼ぶ。
明日は会えないかもしれない。最近の僕の心臓は、おかしい。
僕の心臓が活発に動くのは今まで君が関わってくることばかりだった。
君の姿を目に映したり、君の声に浸ったり、君と淫らなことをする妄想をしている時、激しく鼓動が動いていた。
最近の僕は、朝起きてから寝るその瞬間までひっきりなしに、崩れたリズムで体の内側から僕の胸を叩いてくる。
まるでここから出せと、君に会わせてほしいと望んでいるみたいで、自分自身の心臓にすら嫌悪感を抱く。
君のことが好きなのは僕だけが良い。僕の心臓にすら君を奪われたくはない。
「坂田君、今日も良い天気よ。はい、坂田君が大事に持っていたハンカチ。きれいに洗っておいたからね。本当に坂田君は良いお友達をもっているのね」
雑音を聞きたくない。けど、君がくれたハンカチを話題にされたら反応せざるを得ない。
震える指先で渡されたハンカチを手に取った。
君だけが生きていてほしい、その隣に僕がいなかったとしても。
僕は君が好きな女の子がいることを知っている。君が幼いころに離婚して離れた母親に複雑な感情を抱いていることを知っている。
君が、あえて僕の感情に気がつかないふりをしていることを、知っている。
「あ、見て坂田君! 楠君よ。ほら、窓の外から面会に来てくれたのよ!」
緑色にゆれるカーテン越しに、髪の長い女と一緒に病院に向かってくる君の姿を見て僕は唇を動かす。
き、み、い、が、い、み、ん、な、し、ね、ば、い、い。
僕の呟きに誰も返事をすることなく、外の肌寒い風が僕の頬を撫でる。
諦めろと、あやすように。だけど絶対に僕は諦めない。僕が死ぬ瞬間まで、君を愛し続けるつもりだから。