恋心を自覚する攻めと天然受け


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「お前、俺と付き合え」
 学内で猛獣と噂される男、畠中からの告白。突然連行されていた宮間は、何を言われているのか分からなかった。
「えーっと、失礼ですが、頭大丈夫ですか? 俺達男同士ですよ」
「んなもんわかってんだよ。うっせえな。ぐだぐだ言わず、付き合えよ」
「いや、だから」
「お前に拒否権はねえよ」
 そう押しきられたのが、5日前。

「ふーん……じゃあまだ、キスすらできてないのか」
「はい、まあ、しないですけどね。畠中先輩が見た目に反して優しいのは、この5日間で分かりましたけど、それとこれとは話が別っていうか……そんなことより山神先輩、すごく楽しそうですね」
 宮間がうんざりして見ると、山神はそれすら楽しそうに、目を細めた。
「当たり前じゃん。楽しまないと、なんのための罰ゲームがわからないでしょ」
「それを俺に言いますか」
「そのかわり、ちゃーんと、面倒見てあげてるでしょ?」
 にこっと笑い、髪の毛をわしゃわしゃと掻き回してくる山神は、一見好青年に見えるが、見えるだけだ。
 しかし、山神が嘘を吐いているかというと、そうではなかった。今のように毎日屋上で相談にのってもらっているし、山神の言った通りにすれば、畠中とのことは大抵上手くいった。
 山神は飄々としているが、妙なところで筋を通してくる男だった。
「そうですけど、でも、山神先輩が『1週間男と付き合う』なんて馬鹿げた罰ゲームを考えなきゃ、畠中先輩と付き合うことにはならなかったし、俺を選んだ理由も、たまたま居たから、なんて」
「嫌だった?」
「嫌っていうか、どうせなら、畠中先輩とは付き合うとかじゃなくて、頼もしい先輩として慕いたかったです」
「でも、この罰ゲームがなかったら、接点もなかったし、畠中のことも勘違いしたままだったんじゃない?」
 言われてみると、確かにそうだった。
「そうですね」
「でしょ、だからさ」
「それに、山神先輩ともこうやって話せなかったし」
 宮間が真面目な顔で言うと、さっきまでにこにこしていた山神の身体が固まり、その後、首をかしげた。
「なんで、俺?」
「え」
 宮間も、こてんと首をかしげる。
「だって、罰ゲームがなかったら、山神先輩とも、接点なかったじゃないですか」
「いや、そういう意味じゃなくて、何で俺と? 関わらない方が、良かったんじゃない?」
 山神が心底不思議そうな顔をすると、宮間はどうしてそんな顔をするのかと、また首をかしげた。
「山神先輩は性格が良いとは言えませんけど、俺は先輩のこと、けっこう好きなので」
 言ってから、思ったよりはだけど、と心の中で呟く。
 山神は目をきょとんとさせ、それから、にたにたといつもの意地悪い顔をする。
「なーにぃ、ちょっと、そんなこと言われたら照れちゃうなあ。そんなに俺のことが好き?」
「いたっ」
 ぴしっとおでこにでこピンされてしまう。
「痛いじゃないですか。そういうところは嫌いですよ」
「だよねぇ」
 でこピンしてきた腕をつかんでも、楽しそうに笑っている。
「なんか、腹立ちますね。そんなに、俺に嫌われたいんですか。でもね、そうはいきませんよ。俺は、先輩が好きなんですから!」
 最初、罰ゲームの説明をされたときはぶん殴ってやりたかったけれど、その時にくらべれば。
 ぶっちゃけると、意外にスッキリした。宮間は勢いのまま、思っていることをぶちまけた。
「だっ、だいたい、山神先輩は自覚がないのかもしれないですけど、面白がっているようで、案外俺のこと見てくれてるし、心配してくれるし、相談にのってくれるし、優しいじゃないですか。それに、ほら、昼ご飯にメロンパンくれたこともあるじゃないですか」
「……餌付かされてるだけでしょ」
「違います。それだけじゃなくて、あと、山神先輩とのスキンシップも嫌いじゃないです。にこにこしているわりに排他的なところがあるけど、髪の毛を撫でてくれたり、落ち込んでたら肩組んでくれたりしてくれますよね。あとでおどけてみせてますけど、山神先輩なりの励ましだって分かってるんですから! そういうの、バレバレなんですよ。ま、意地悪な顔されると、いらっとしますけど、たまに優しい表情したときは恰好いいなと思うし。あと」
「いや……もういいから」
 腕をつかまれてはっとする。宮間が山神を見ると、下を向いてぷるぷると震えていた。髪から覗く耳が真っ赤になっている。
「どうしました? あ、やっぱり褒められるの、嫌だったんでしょ?」
 返事がない。
 しばらく待っていると、突然、眉間に皺を寄せ、怒った表情の山神が顔を上げた。耳同様、顔も真っ赤になっている。
 宮間は、怒りで血がのぼったんだなと解釈した。嫌がらせが成功したことに満足する。
「ね。これに懲りたら、山神先輩も、嫌がらせはやめることです」
「お前……それ、本気でいってんの」
「もちろんです。じゃないと、勿体ない。山神先輩は、アレですけど、恰好いいし、優しいし、それから、んぐっ」
 続きを言おうとしたら、山神の手に口を塞がれてしまう。もごもごと口を動かして、手を離すように抗議しても、聞いてもらえなかった。それどころか、一人言をぶつぶつ呟いている。
「なにこいつ、本気で言ってるのか……ていうか俺はどうした……あんなもん、さらっと流せばいいだろ」
 何を言っているのか聞き取れなかった。ただ、山神が自問自答しているのは、宮間にもわかった。抵抗しても無駄だと学習した宮間は大人しく待つことにした。
「顔が熱い……なんだこれ、まるでこいつのこと……いや、いやいや、有り得ないから。こいつが無自覚に恥ずかしいこと言ってきたから、それで……そう、有り得ないから」
 とりあえず落ち着いたのか、まだ顔は赤いが、山神はいつもの笑顔を貼り付けた。
「いやー、参った」
「わっ」
 がしがしと髪を掻き回される。
「照れちゃうなあ」
「全然、照れてないじゃないですか」
「照れてるよー。でもね、罰ゲームとはいえ、一応、畠中と付き合ってるんだから、他の人を好きとか言っちゃ駄目だと思うんだよねえ。畠中に言ってもいいの?」
「あ」
 宮間が顔を青くする。それを見て、山神の眉がぴくっと動いた。
「……まー、言わないけど。これからは気を付けなよ」
「う、はい」
 返事をしたところで、予鈴がなった。
「あ、教室に、戻ります」
 宮間は出口に向かった。
「あーうん、じゃあ、また放課後。畠中と行くわ。今日、カラオケ行くんだっけ?」
「はい。……あ、そうだ」
 前を歩く宮間が、にっと白い歯を見せて山神を振り返る。
「あと2日たって、罰ゲームが終わったら、畠中先輩と友達になろうと思ってます。あの、山神先輩とも友達になれますよね」
「んー? ……あー」
 一瞬考え、にこっと山神も笑顔で返した。
「……そだね」
 山神の返事を聞いて、宮間は納得したのか、また前を歩き始めた。なんだか足取りが軽い。

 山神は足を止めた。空を仰ぎ、目を閉じる。はあ、と息を吐き出す。
「友達……ね。んー、初めて嘘ついたかも」
 今までなんとなく目をそらしてきたが、もう、誤魔化すことはできなさそうだった。
「こうなったら、長期戦かなあ」
 あいつ、鈍そうだし。
 山神は一歩、足を踏み出した。



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最終更新:2014年11月24日 20:54