※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

サラリーマン×宅配業者の攻め視点

 最初は頼りないな、それだけの感想だった。
 猫の手も借りたい時に、まさか子供相手なんてしてられる訳もなく。でも逼迫した状況
で他者の人間に依頼する訳だから、相手を責める訳にもいかない。まあ、慣れない子供を
寄越した責任者には多少の恨みを感じたのは否めないが。
 しかし、予想を裏切りきっちり時間内に書類を届けたそいつに、感心した。よくもまあ
焦らずしてのけたものだと。
『いえ、高木さんのお陰です』
 子供は何故か嬉しそうに、俺にそう言った。はにかんだ笑みが可愛くて……そう、可愛い
という言葉を思い浮かべた時点で、まあ。こいつの事が気に入ったんだな、と気付いた。

 思えばまぬけな始まりだったと言えよう。

「工藤君、もう少し待ってくれる?」
「はい」
 笑顔で良いお返事。いつもながら全く可愛いものだね。うちの人間なら間違いなく文句
の一つも出るとこだが。……いや、彼の場合は仕事だからというのもあるか。
 ここのところすっかり仕事が立て込んでいて、俺達デザインルームの人間は皆死に体の
まま高価なドリンク剤で生命維持してるような状況だ。そんな中で工藤忍君の存在はまるで
一服の清涼剤のようなもので。普段は女を忘れているかのようなうちの女子達も、
『忍君の笑顔には癒されるわ~』
 と大好評。そんな言葉に冗談言わないで下さいよ、と明るく返す屈託のなさもポイント高
らしい。いやま、彼女らは彼を「恋人より弟?」って目で見てるらしいんだが。
 俺なんて思いきり彼氏に立候補するんだけどな。
「しゅーにーん! 駄目ですよ忍君と遊んでちゃ」


「なら正木は餌付け禁止」
「えぇ~、それはずるいです~」
「ずるかない。こっちは仕事の話してるんだからお前も仕事に戻りなさい」
「は~い。後でチョコあげるからこっち寄りなさいね、忍君」
 テンパってる割には調子の良い会話に、彼はくすくすと明るい笑い声を漏らす。
「……悪いね、相変わらずうるさくて」
「いえ。いつも楽しそうでいいです。なんか好きだな、このオフィス」
 本当に楽しそうに言うから、それはお世辞ではないのだろう。ようやく纏められた資料
を袋に入れながら、その好きはどこに掛かるんだろうな、と詮もない事を考えた。

「じゃあ、今日はこの2件をお願いします。今回は特に壊れ物なし。水濡れだけには注意
して下さい。場所は……」
 いつものように伝達をして、それで短い逢瀬は終わり。今回は邪魔者も居たりして余り
話せなかったが、何、次の機会があるさと気を取り直す。

「はい、ではお預かりします。……あ、そうだ高木さん」
「ん? 何か質問でもあるのかい?」
「いえ。そういえばちゃんと御礼言ってなかったかな、と思って」
 ……御礼? 何か言われるような事はあっただろうか。とりあえず先を促す。
「この会社に初めて来た時……言って下さいましたよね。『ベストを尽くすのと無理をす
るのは違うよ』って。それで俺随分と楽になったんです。あの言葉がなければ多分、焦って
上手くいくものもいかなかったんじゃないかと思う」


 何やら真面目な顔でそんな事を言うから、笑うのも憚られて言葉が終わるのを待つ。
「あの日の言葉は、俺にとって大事な指針になりました。ありがとうございます。それから
……まだまだ迷惑掛けると思いますが、宜しくお願いしま……って、何笑ってるんです?」
「あ、いや……。忍君があんまり……」
 可愛いから、とは流石に続けられず。仕方ないので頭を撫でて見せる。反則だろう、
そんなにしおらしく俺を尊敬した目で見ないでくれ。
 いい加減理性が崩れ落ちそうだ……。
「だ、から! 何で頭撫でるんです?」
「何だろう、撫で心地がいいからかな」
「……っもう、じゃあお預かりしますっ!」
 むくれた顔で去っていく彼の後ろ姿を見送りながら、俺はそろそろシナリオの変更が必要
になったのだと勝手に解釈して。
 次のステップに進む為の、密やかなプランを組み始めた。