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お風呂あがり


「君にコーヒー牛乳をご馳走したいのだがどうかな?」

それが彼が俺に言った、初めての言葉だった。


何とも不運な一日だった。寝過ごすわ電車は乗り遅れるわ財布を忘れたせいで昼飯もなし、提出しなければならなかった書類は忘れる。
帰りは帰りで再び電車を乗り過ごし、疲れ果てて帰宅。やれやれ風呂にでも入るかと溜息を吐けば、止めとばかりに給湯器が故障していた。
お湯が、出ない。
「…信じらんねぇ」
がくりと項垂れるが仕方ない。水風呂に入る訳にもいかないので、近所にある銭湯に行くことにした。

「―っはぁああ」
風呂上りにはコーヒー牛乳。これは俺のマイルール。
髪を適当にタオルで掻き混ぜつつの一気飲みが最高なのだ。親父臭い声が出るのもご愛嬌ってやつ。
紙パックも美味いが瓶も美味い。この時の俺は随分と幸せそうな顔をしていたことだろう。

それから給湯器が無事直ってからも、ハマってしまった俺は週に何日かは銭湯通いをしていた。
そんで暫くして気付いたこと。
同じ人と、よく一緒になる。大体俺が行くと既にいて、俺の上がる少し前に出て、フルーツ牛乳を飲んでいる。
お兄さんとおじさんの中間っぽい。一言で言うと『渋い』。始めて意識した時は男の俺でも“かっけーなぁ…”と息を吐いたぐらいだ。
割と頻繁にタイミングが合うもんだから、会えば会釈する程度の仲にはなっていた。
それが冒頭の、あの彼の言葉によって急接近することになったのだ―

「ってかなんであん時俺に声かけたんスか?」
回想が一段落した所で風呂上りの彼に尋ねてみる。俺と同じような、Tシャツにハーフパンツ。頭にはタオル。
普段の彼からは想像もできないようなラフな格好だ。自宅だから、当たり前なんだけど。
「ん?あぁ…そうだなぁ、最初に君が来た時のあの飲みっぷりと幸せそうな顔が忘れられなくてね。とてもチャーミングだったよ。勿論今も、ね」

ニッコリと笑う彼が眩しくて、俺は羞恥心で顔を真っ赤に染めながら
「…結城さんも、かっこよかったっスよ」と返すことしか出来なかった。