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老眼


 鳩の鳴き声で、目が覚めた。いつもより少し早い時間だったが、のんびりするのも悪くないと思いおもむろに起き上がる。
 眼鏡をかけ、髪をかき、腹もかきながら郵便受けに行って新聞紙を手に取る。見出しが興味のあるものだったので、リビングに行ってソファにどかりと座った。ばさりと音をたてて、新聞紙を開く。
「ん?」
 文字がぼやけて、読みにくい。ああ、なるほど。とうとう自分にもやってきたのか、とため息ひとつ。眼鏡を下にずらし、新聞を離して読んでみると、ちゃんと読むことができた。

 暫く集中して新聞を読んでいたら、頭に何かが乗っかった。
「おい、あんた。そのずらした眼鏡、爺くさいよ」
「……ずいぶんなご挨拶だな。頭の上、のけろよ」
「へいへい」
 頭に乗っかっていたものは同居人の腕だった。素直に退けてくれたが、後ろを振り向くと同居人はにやにやと目を細めていた。
「なんだ、その顔は」
「いや、近くが見えなくなるなんて、あんたも年だなと思ってさ」
「恋も冷めたか」
「さあ、どうだろうね。でも、この男前がちゃんと見えないのは、悲しいかな。どう?」
 くいっと顎を持ち上げられる。相手がかがんできたので、息がかかるほど互いの顔が近づいた。
 ……いやいや、どうと聞かれても、お気に入りの長いまつげも意地悪な瞳も、ぼんやりして見えにくいのですが。しかし、それを伝えると負けるような気がして、考える。そして、思い付いたのは、自分らしく馬鹿なことだった。
 相手の両頬に手をやる。あ? と相手が間抜けな声を出した瞬間、おれはブチュッとキスをお見舞いしてやった。
「なっ」
「キス大成功。見えにくくても、唇の位置は的確だったな。さすが、おれ」
 にひひっと笑う。同居人は何か言いかけたが、難しい顔をしてそっぽを向いてしまった。拗ねたらしい。ははは。
「なあ、男前さん、かわいいぜ?」