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何度も夏を繰り返す


お互い気づいてる。
何も言えない。
今日も、いつも通り新品の水色のサンダルを履いて行った。

真っ青にのしかかるような空を押し返すように、ぎりぎりぎり、とセミが鳴いている。
張り付くように染み込んでくる太陽の光から身を守りたいのか、体から勝手に汗が噴き出した。
「あつ、」
ふつふつと浮き上がって服に染み込む水分に不快感を覚えながら、まっすぐにその場所を目指す。
砂利がほとんど散った参道を早歩きで抜けて、不揃いな石段を駆け上がる。
「光流」
生白い膝小僧に、大きめの絆創膏。
どこか眠たそうな目が、少し嬉しそうに細くなった。
「おはよう、たくと」
「おはよう」
神社の階段に座り込んで笑いかけてきた光流の隣に座ると、やっと風を感じた。
「ここは涼しいな」
「神様がいるからね」
今日は何する?と、こっちを見る。
「セミいっぱいいるよ。探しに行く?」
「…今日はいい」
「そうか」
その後、黙った。
お互い、何度繰り返したかわからない時間。
自分たちはそれがずっと続くと思っていた。
終わるとしてもそれはずっと先で、少なくとも今じゃないって、思ってた。
「…ならたくと」
言えないことがある。
言えないことがあった。
「罰当たりなことをしよう」
「…そう、しよう」
光流の左腕のはんこ注射の痕は俺のそれよりくっきり浮き出て見える。
色が白いからだろうか。
肩が触れる。
汗ばんだ腕が、首に回って、ふと匂った。
そのたびに、こいつも汗をかくのだなあと不思議な気持ちになる。
俺はこいつを何だと思ってるんだろうか。
神社を覆うように茂った葉の薄い木から、細かい光が差してきて、目に刺さった。
「っ」
「…日が強いね、今日も」
目の前に、濃い茶色の瞳が一対、迫っていた。
「なあ、光流」
「うん」
「みつる」
「うん」
「もういいだろ、俺、お前が」
「だめ」
だめ、ともう一度言って、口を塞がれる。
そのまま体重に押されて、木でできた階段に頭を軽く打った。
「…痛かった?」
汗じゃない。
喉が苦しくて、奥の方が痛む。
耳の方にたらりと、汗と混じってこぼれていく。
光流が指でそっと触れてくる。
そのあと、唇で目尻に触れて、確かめるように舌先で舐めてくる。

言ったらきっと終わる。
言ったらきっと終われる。
今日この日、夏休み最後の日。
果たせなかったらしい約束を、果たすために。
あの日辿り着けなかった場所に、俺は駆け込んで、そして、
言えない。

一番最初の今日、この日、俺が水色のサンダルを履いていなかったら、もっと早く決心していたら、光流が遠くの学校に行ったりしなかったら、俺が、もしくは光流が、女の子だったら。
もっと早く言えたかも知れないなんて、
いまさら、そんなこと。

「みつる。みつる、」
「…言わないで、お願い、託人」
あの言葉をお前に託すためだけに、きっと俺はまだここにいる。
お互い気づいてる。
でも言えない。終わらない。終われない。

今年も、明日も、その次の日も、

何度も、この夏を繰り返す。