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保育士×元園児


「先生って背、低い」
はいはい、と先生はうなずいた。
「先生、園長先生だよね、偉いんでしょ? でも若いから松本先生とか黒木先生とかによく怒られる」
そうだね、と先生は苦笑いした。
「先生、五月の運動会のあいさつ下手だった、えーっと、えーっと、とか言っちゃって」
あいさつニガテなんだよ、とあごを撫でる。
「ピアノも下手だ」
練習してるんだけどね、早くは弾けないの、悪いね、と謝る。
「……その眼鏡、なんかダサい。大きすぎる」
また、はいはい、とテキトーな返事。
「服もダサい。エプロンもダサい」
いいんです、こどもと遊ぶのにはこういう服が一番、そう言って先生は、
「もっと可愛いエプロンもあるけど、これくらいが気に入ってるんだよ、ダメかな?」
エプロンのお腹に手をやって、ちょっと首を曲げてみせた。
それが可愛いポーズになってることもわからないなんて、やっぱりダメだろう。
ちょっと威厳とか考えた方がいいんじゃないの。

もう、俺の方が背が高い。俺はまだ高校生だから、これからもっと大人になるのに、先生はひょろりと小さいおっさんのままだ。
保育園児だった頃は、俺にはすごく大きな大人の先生だった。
子供をドンドン肩車したり、たくさん子供が乗ったリヤカーを園庭で引っ張ったり、たったひとりの男の先生だったから、もう最強だと思ってた。
それが、こんなおっさん。それも若いおっさん。
聞けば、昔は大学出たてだったとか。実家の園に帰ってきたばかりのペーペー保育士だったとか。
ぜんぜんわからなかった。俺は子供だったんだから仕方がない。
今は、俺は大きくなった。大人になった。
こうして月一回、地域住民として、卒園児として、定例の清掃活動に参加だってしてやっている。
……いつまでも子供でいると思うなよ!
そう思うのに、この完全な子供扱いはどうだ。

「先生、ビールちょうだい、そうじして喉乾いた」
「ハタチになってからね、はい、ヤクルト」
「よけい喉乾くって!」
ニコニコして俺を見る目つきは、父親通り越してお爺ちゃん、いや、むしろお婆ちゃんのようだ。
昔、先生のことマジで父親みたいに思ってたんだよな。
家に帰ればお母さんがいて、保育園に来れば先生がいた。
正直、内心大好きだった。卒園してからもよく遊んでもらった。学校で嫌なことがあれば慰めてもらったりもした。
それが……気がついたらこんな小さいおっさんで、親父っていうよりむしろ、若い? 頼りない? 案外、年も遠くなくね? みたいな。俺もすぐ同レベル?
次、卒業して就職したら、飲んだり遊んだり、ってのもあり? とか思ったりして。っていうか、本当、そんなのすぐだから。

「ダメ。ダサい。壊滅的にダサいからダメ。俺がさー、就職したらエプロン選んでやるから」
「ありがとう。でも、まずはお母さんにプレゼント買うんだよ、ここまで立派に育ててもらったんだから」
頭を撫でられた。
「本当に、大きくなったね、すごく大人になった、先生嬉しいな」
馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿。背伸びしてまでナデナデすんな、触るな、子供扱いするな、いつまでも!
ふんわり、じーんとした感触が髪にいつまでも残って、困った。