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天使と悪魔


どう贔屓目に見ても消し炭にしか見えない黒い塊を前に、俺は本気で困惑していた。
バレンタインという名目のもと、奴が小さな包みをぶっきらぼうに突き出してきたのは今朝のこと。
何コレ?と聞けば「見てわかんねーのか、マフィンだ」と返されたけれど…正直、分かるか。「捨てる…わけにはいかないか…」
それはいくらなんでも忍びない。似合わないエプロンなんかして、いそいそとキッチンに向かう奴を想像するのは容易すぎた。
人にやるのはもっての他で、だから、結局は。
「…腹をくくろう」
息を止めて消し炭、もといマフィンを口に放ると、ざらざらした食感と焦げた匂いがいっぱいに広がった。…うん、これはいつにも増して手厳しい。
なんとか水で流し込み、俺は盛大にため息を吐いた。

全くあいつは。笑顔も泣き顔も寝顔も天使のようなのに、味覚と料理は悪魔のそれなんだから。
けど…まあ。そんなとこも可愛いとか、思ってるのも事実で。
それに、やればできる子だってのも分かってるから。
明日、奴に味の感想を聞かれたときの言い訳を考えながら、俺は次のマフィンに手を伸ばした。