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好きと言えない関係

「健司ー、オレのパンツ混ざってねえ?」
軽いノックの後、ドアを開けた昌弘の肩にはタオルがかかっていた。
「見てないからわかんね。そこに置いてある」
壁を背もたれにベッドで漫画を読んでいたオレは、タンスの足元を顎で示した。
そこには昌弘の母親がたたんで持ってきた洗濯物が、持ってきたままの状態で積みあがっている。
オレも昌弘も体型が一緒なので、洗濯物が混ざるのはよくあることだ。
名前でも書いてないかぎり、見分けろというほうが無理な話。
「それ新刊? いつ出た?」
「帰り本屋寄ったら売ってた」
目的のパンツを見つけた昌弘が、ベッドに上がってくる。
「どこまでいってたっけ。話忘れた」
オレの手元を覗き込む昌弘の頭が、肩に触れる。
ヘアワックスのすっとした匂いが鼻をかすめて、オレは視線を漫画から昌弘に移した。
「あとで貸して。前の巻も」
「うん」
見上げてくる昌弘と、返事をするオレの顔はとても近い。
もしもオレたちが恋人同士なら、キスができるくらいに。
これくらいの距離は、オレと昌弘にとって普通の近さだ。そして、これ以上は絶対に縮まらない。お互いの気持ちが通じているとわかっていても、今まで一度だって言葉にしたことはない。
男同士だから。連れ子再婚でも兄弟だから。まともな家庭を壊したくないから。
好きだと口にすれば、言葉だけでは足りなくなる。もっと先に進みたくなる。
だからオレたちは絶対に口にしない。偶然と自然でごまかせる部分にしか触らない。
男同士でベタベタしてると呆れ声で言われても、べつにいいじゃんと言い返せるように。
「んじゃ、風呂入ってくる」
昌弘がオレの肩に頬を滑らせて離れる。
そのまま部屋を出て行こうとする昌弘を目で追いかけ、置き去りにされたグレーの布地に気がつく。
「昌弘、パンツ」
「あ、そうだ」
掴んだ下着を放らずに腕を伸ばす。受け取る昌弘の指が、オレの手の甲に触れる。
布地越しに指を絡める。名残惜しげにそれはゆっくりほどかれる。
「サンキュー」
少しはにかんでパンツを振り回し、昌弘が部屋を出て行く。
階段を降りる足音を聞きながら、オレは読みかけの漫画に視線を戻した。
触れ合った指で無意識に唇をなぞる。
漫画の内容は、少しも頭に入ってこなかった。