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父の恋人

夏ともに、俺たちの奇妙な同棲生活は始まった。
俺と、親父と、渡辺さんとの。
「こういうのも三角関係っていうのかな」と渡辺さんは言う。
言わないよ、と俺は笑った。そんなにギスギスしたもんじゃあない。
ただお互いが、お互いのことを大好きなだけで。
「アイスが食べたいねえ」
熱がりの渡辺さんの口癖だ。親父は情けない顔をして、今切らしてるんだ、と言った。
「本当に暑いねえ」
渡辺さんには、寒い国に奥さんがいる。死んだおふくろに瓜二つの奥さんが。
でも親父と渡辺さんは恋人だ。
悲しい因果がそうさせたのだと、以前渡辺さんが言っていた。
恋人だって、キスをするわけでもなく、まして体を交えることもない。
ただ、悲しみを分かち合っているだけだった。
親父は、おふくろを失った悲しみを。
渡辺さんは、もう女の人を愛せなくなった悲しみを。
こういうのも恋人っていうのかな、といつもの軽い口調で渡辺さんが言い、
言うに決まってるさ、と悲しみをこめて俺が言ったのはいつだったか。
夏とともに、俺たちの悲しい同棲生活は終わる。
全部が元通りになって、そしてまた、いくつも季節を重ねて。
俺たちはまた出会えるんだろうか。
「出会えるよ、そしてそれを運命っていうんだよ」
渡辺さんは、時たま詩人のような言葉を使う。
そしてそれは、俺をひどく困惑させる。