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セクサロイドとインキュバス

何かなァ、と彼はベッドにうつ伏せて呟いた。横たわった僕のすぐ横に、端麗な横顔が来る。
色の薄い髪の先が滑り落ちて、尖り気味の耳が露わになる。剥き出しの背には蝙蝠のそれに良く似た翼がぱたついて、いかにも退屈そうだった。
「オマエとしても、あんまりキモチヨくないんだよなァ」
そう言われると、僕としてはどうすればいいか分からなくなる。
黙り込む僕の方に顔を向けて、彼は悪戯っぽく笑った。僕が惑うのを楽しむように。
「オマエ夢見ないだろ。オレとしてはソッチがフィールドだからさ? 生身ってナンか変なんだよ」
「……そうでしたか」
「ま、しょげんなよ。へばンない相手は久しぶりだったしさァ」
伸ばされた手に頭をぐしゃぐしゃされながら、伝えられた不満を解析して、どうにかできることがないか考えてみる。
暫しの沈黙の後、やがて一つ、いいことを思いついた。
体を起こして、訝る顔を左右から挟むように、ベッドへ両手を付く。できるだけ優しく笑う表情を作って――

「では、役割を変えてみましょう。未知の中に新たなる趣味嗜好を見出せるかもしれません」
「ちょッと待てよオイ」
「あ……あの、もう過去に体験済みでしたか。ごめんなさい」
「ねーよ! ねェけどそこがモンダイなんじゃねェんだよ!」
「良かった。ご心配なく、方法は心得ていますから」
「オマエ分かってる? ナイだろ? そもそもオレの名は『上に乗る』って意味でだなァ」
「ええと……大丈夫です。お望みの体位にお応えします」
「そういうイミで言ってんじゃねーよ!」

目を三角にする彼の頬に、僕はそろりと手を触れた。

「貴方に快い夜をお約束致します」

それは昔、僕が売り出された頃のキャッチコピー。
規約に従い、前の持ち主のデータはもう、僕の中に何一つ残っていない。
覚えているのはただ、棄てられた後の、どうしようもない不安と虚しさだけ。
彼が悪魔なんて非現実的な存在でも、面白半分にでも、僕を拾ってくれた時、まだ価値があるんだとどんなにほっとしただろう。
――もう二度と手放されたくない。失いたくない。一人にはなりたくない。だから。

「マスター」

覗き込む僕の顔に、何を見たのだろう。
どォにでもなれ、と自棄気味に呟いて、マスターは仰向けになると僕の首に両腕を回した。