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なかなか告白できない

「なあ、お前好きな奴とかいんの」
買ったばかりのブリックパックにストローを刺しながら、吉岡が唐突に言った。
「は? ……別にいないけど」
「ふーん」
自分からネタを振ったわりに全く興味のない返事を寄越して、いちごミルクを音を立てて啜る。
毎日毎日飽きもせずにいちごミルクだ。そして毎日飽きもせず、一口飲んだ後は必ず同じ台詞だ。
「飲む?」
「だからいらないって。甘いの嫌いなんだって」
「あっそ」
差し出された飲みさしのパックから――正確には先が少し噛み潰されたストローから、辛うじて目を逸らす。
甘いものが嫌いだと言ったのは少し嘘だったし、いらないと言ったのはもっと嘘だった。
無神経だと苛立つのは俺の自分勝手でしかない。悪いのは変に意識している自分だけ。
放課後の屋上から眺める校門付近には見渡す限りのカップルカップルだ。何がそんなに楽しいのか遠く笑い声が聞こえてくる。
「勝ち組どもが」
「僻んでんじゃねーよ童貞」
「吉岡だって、」
童貞だろ。なんて、その生々しい単語を躊躇した。相手が吉岡でなければたぶん言えた。その程度の純情だ。
「俺も勝ちてえ」
「佐々木は無理だろ。クソヘタレだから」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。よりにもよって当の相手本人から言われるのだから立つ瀬がない。
「告白ってどうやるんだよ」
「俺が知るわけねーだろ」
「てか、吉岡は。好きな奴とか」
「……別にいねーし」
吐き捨てるように呟いて、吉岡は明後日の方向を見た。手の中でブリックパックが少しひしゃげている。
そのままこちらを見もせずに、さんざ噛まれて尖ったストローだけが俺のほうに向けられた。
「飲む?」
「だから、いらないって」
「あっそ」
ずずず、と名残を啜る音がして、やがてストローから口を離した吉岡は小さな小さな声で何か呟いた。
「――どうせ俺もクソヘタレだ」
「何か言った?」
「言ってねーし」
乱暴に紙パックを潰す音は、今日もやっぱりなけなしの勇気が潰れる音みたいだった。