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今日から両思い

「――今日から、両思いだね」
フ、と唇の端で気障な笑いをして、奴は手の中のグラスを揺らした。氷が涼し気な音を立てる。
窓の外の三日月と同じ形に細められた流し目から、俺は顔を背けた。
「言葉は正確に使え。お前の今の台詞は明らかに間違っている」
「え? ……え? うそ? 違うの!?」
裏返った声と、グラスが乱暴にテーブルに触れる音が絶妙な不調和を生む。騒々しい。
「だって! 俺さっきお前が好きだって言って、お前だって頷いてくれたのに!」
「声の大きさを考えろ。個室とは言えこの店は貸切ではない」
「あ、はい」 
大げさに肩を落としてしょぼくれたような顔をしてみせる、その様に少しだけ苛立った。
「……やっと言えたのに」
小さな子供がいじけるように口を尖らせて呟く。声は少し震えているようだった。
「ずっとずっと好きで、やっと両思いだと思ったのに……」
なぜそんなに落ち込んだ素振りを見せられなければならない。まるで俺が悪いかのように。
「お前はいつもそうだ。一人で先走って見当違いなことばかりを言う」
とうとう涙目になってしまった。元はといえばお前が失礼なことを言うのが悪いのだろう。
今日から両思いだと? 馬鹿なことを。まったくもって不愉快だ。勘違いも甚だしい。
「訂正しろ。今日からではない。ずっと前から、両思いだ」