アリーナ

ここはコンサート会場前で、手元にはチケットが二枚ある。
昨日、付き合ってくださいの言葉と共に渡されたものだ。
二枚とも渡したことで奴の馬鹿さ加減はわかろうというものだが。
あと30分で開場だ。誘った当人はまだ来ない。
もしかしたら来ないのかもしれない。
告白された瞬間、俺は思わず「アリーナじゃないとヤダ」と答えてしまった。
素直に頷いておけば良かった。頷ける性格だったら良かった。
きっと来ないんだろう。
一歩を踏み出せない俺に、お前から手を差し出してくれたのに、それを突っぱねたんだ。
来るはずがない。絶対に来ない。
俯いていたら涙が零れそうで、空を見上げる。

……何か、見た。

妙なものが、上を向く際に視界を掠めていった。
徐々に視線を下げていく。
その妙な物体は明らかに近付いていた!ってか、来るな!


「ア○ーナ姫とーじょー!どう?どう?似合う?」

手作りらしきお面を被り、某RPGのキャラのコスプレをした物体は、奴の声でそう言った。
俺は無言のまま顔面に拳を叩き込んだ。
潰れたお面を引っぺがして、奴の手を引いて会場に向かう。
口を開いたら号泣してしまいそうだった。
幾らなんでもこれはないだろう?普通ならこんな間違いありえない。
そう思うのに、嬉しかった。
きっと奴には一生敵わない。


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最終更新:2013年08月15日 01:42