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戦士対魔法使い

 戦いの終わった証として、そしてもう二度と繰り返さないという誓いとして、二つの国はあるものを取り替えた。
 それは旗でも王冠でもなく、同じ頃に生まれた二人の王子だった。その儀式の場で二人は出会った。
「こちらの国では王子がお生まれになる前から、どの家の者が騎士として仕えるのかが決まっている。俺はずっと心待ちにしていた。その方のために命を捧げて生きるのだと、それしか考えずに今までを過ごしてきた」
 大人ばかりの場で緊張した顔をややゆるませて、彼は話した。口ではそうと言わないが寂しげな顔をしていた。
 少年は、言うことは大人びても話す調子は年相応の印象だった。ノスアは思わず気安くなり笑ってこたえた。
「争いごとは終わったんだ。平和が続けばいつでも会えるさ」
 相手の少年もつり込まれたように笑顔を見せた。
 宮廷魔術師であるノスアが自分の立場を告げると、少年はエオと名乗った。エオは騎士だった。
 二人はお互いの王子を自分の主として守ることをかたく誓って別れた。
 二人はその後もいくどか再会した。王子と共に互いの国を行き来したのだ。
 そうして年を重ねる内にノスアの王子は魔法を、エオの王子は剣を覚えた。
 言われなければもうどちらの国の出とは分からない。長くいがみあっていた国の境など、これだけのものだったのだ。
 このようにしていつか、二つの国が交わってひとつになるといい。二人はよく語り合った。
 しかしほどなくして、エオの国の王子が病を得た。原因は分からない。両国を取り巻く雰囲気はにわかに剣呑になった。
 その中を、エオがたった一人馬を駆ってやって来た。王子の故郷の薬を求めたのだ。
 二人が初めて出会ってから十余年が過ぎていた。五日の間走り通してきたというエオは、国に名の知れた騎士になっていた。
 ノスアもまた、今では力のある魔術師だった。彼は手を尽くして薬をつくった。
 それを渡すのと共に、彼は家に伝わってきた守護の石をエオの首にかけ、無事を願った。願い通り、エオは無傷で国に戻った。
 けれど二人の思いは空しく、王子は死んだ。
 一方では病など嘘であの国の連中が殺したのだといい、一方ではあちらが毒の薬を持たせたのだと言った。
 誓いはもはや意味をなさなくなった。争いが再び始まった。二人が次に会ったのは、燃え落ちる城の中だった。
 ノスアは王子を連れて逃れるところだった。エオは呼び止めた。
「ノスア、逃げるな。知っているのだろう」
 二人は炎の中に対峙した。シニス王子を後ろにかばったノスアにエオは瞬時ためらい、けれど意を決して口にした。
「お前は知っていたのだろう。……殿下が、そうおっしゃられた」
 ――自分は王子ではない。ノスアに教えられた。
 衰弱した君主が最期に囁いた言葉だった。
「それと同じだったのだ。もうこちらの国では本当の王子が即位された。今まで僻地にかくまわれておられた」
 言い終えたとき、燃えさかる炎に照らされてなおノスアの顔は白く青ざめて見えた。
 それが今連れて逃げようとしている王子もまた替え玉なのだと確かに分かったからなのか、推し量ることはできなかった。
 ふいにノスアが口を開いた。
「なぜ憎まない」
 言った声は平生の彼の明るさとは似ても似つかなかった。
「私が殺したのだ。あの薬は毒だった。なぜ私を殺さない」
「俺もお前を騙し続けてきた」
 話すうちにも火の手が迫った。逃げなければ手遅れになる。一歩踏み出したエオを恐れるようにノスアは退いた。
「違う、お前は愛していたのだろう」
 半ば叫ぶような声だった。エオは言葉を失った。そのエオを一瞥して、ノスアは王子の背を突いた。
 エオはとっさに王子を受け止めた。その時、ノスアの身体に青い火がともるのが見えた。
「死んでも償うことはできない。けれどこれ以上生きることは叶わない。エオ」
「ノスア」
 目が合った。
「お前の王子は、デクスは、私の弟だ」
 視界が青く染まった。意識が途切れた。
 そうして目蓋にうつった長い夢の中にノスアとの思い出を見たような気がした。
 気付いた時には崩れた瓦礫の中に半ば埋もれて、けれど彼とシニス無事でいた。
 ノスアに渡されてから外すことのなかった石は、二人を守ったのか、術者を失ったせいか、二つに割れていた。
「それはノスアがわたしにくれたものです」
 とシニスは言った。
「けれどどうしても返して欲しいと突然言うのです。お前には主君より大切なものがあるのかと、わたしは拒みました。けれどノスアは、どんな仕打ちをされても構わないからと頼むのです。それを条件に、わたしは折れました」
 シニスの目の澄んだ冷たさは、青い炎に身を包まれたときのノスアの眼差しに似ていた。その目を伏せてシニスは呟いた。
「あなたが国へ帰る時のことです」
 二人は石の片割れを分け合って、別れた。しかしその後も石は呼び合い、様々な人の間に縁を結んだ。
 けれどここで語るには長い物語である。