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遅くなった誕生日プレゼント

いつの頃からか、自分が誕生日を迎えた日の0:00に「おめでとう」メールを
受け取るのが、二人の間での恒例行事になっていた。
生まれたときから知っている幼なじみ。いつもはがさつなあの男が
どうやってこの日を忘れずにいるのか、正直不思議に思う。
時間指定をして事前に準備をしているのか、それとも、時計を見ながら
送信ボタンを押しているのか。
そして自分はといえば、そのマメさを日常生活に生かせ、と毎年のように言いながら、
携帯電話のディスプレイを開いて生まれた夜を待っている。
こんな変な習慣をつけさせやがってと相手を呪いながら、時計の針をじっと眺めてしまう。
しかし25回目の誕生日を迎えた今年、自分の携帯は日付を変えても
何も受信することはなかった。

何も考えないように仕事をする。やらなければいけない案件は山ほどあった。
寝不足の脳は動きを鈍らせて抵抗する。そんな自分の状態が腹立たしい。
結局昨日は、回る秒針と数字を増やす短針を眺めるままに朝を迎えてしまった。
たかが幼なじみからのメールが届かなかったからって、このザマはなんだ。
女子高生でもあるまいし、そんなことに時間を費やしたなんて。

イライラと走らせるボールペンはいつも以上のミスを生む。
気がつけば窓の外は真っ暗で、オフィスの中には自分以外の人間はいなかった。
ガランとした空間。
「お誕生日なのに残業なんてダメですよ」
今年入ったばかりの新人がそう言って帰ったのは何時間前のことだっただろうか。
人間関係に恵まれたこの会社の居心地はいい。今日も誕生日を迎えた自分に
たくさんのおめでとうの声がかけられた。
それなのに、ありがとうございますというお礼の言葉は丁寧さとは裏腹の生返事だった。
自分にあきれた。
頭に浮かぶ顔は普段と変わらずにへらへらと笑っている。

顔を上げると、無機質な壁時計が早くも日付の変更を告げようとしていた。
昨夜も同じことをしていたのを思い出してしまい、そんな自分に心の底から嫌気がさす。
止まることのない一定の間隔で、赤い秒針は音もさせずに時を刻み続けていた。
今日という日がもうすぐ終わる。終わってしまう。それを見たくなくて、思わずまぶたをきつく閉じた。
その直後のことだった。
「うわ、」
胸ポケットで激しく自己主張を始めたのは、今日一日嫌というほどその存在を意識させられた携帯電話だった。
何回も続く着信の振動は、それがメールではなく通話であることを示している。
画面の名前は、いま一番遠ざけたくて、遠ざけられない男の名前だった。
通話ボタンを押す。知りすぎている声が聞こえる。

『俺のこと好きだって気がついた?』
その声に、心臓の痛みが着信の振動のせいだけではないことを思い知らされてしまった。
『誕生日おめでとう』
今年はギリギリセーフを狙ってみたんだ、と低い声が響く。
『待ってた?』
「……お前は一回死ね」
『え、新しい年の最初の言葉がそれってひどくない?』
「うるさい死ね、死んでしまえ」
口の悪さは自覚している。こんなときでも直せない意固地さも分かっている。
そんな自分を受け止めてきたのはこの男だった。長い間、ずっと気がつかないふりをしていた。
『じゃあ、死ぬ前にもう一度顔を見せてよ』
電話口の声が告げる。いつもと変わらない声。自分のそばにある声。
『今どこ?』
夜は深く、明日も仕事があった。能率の悪い仕事ぶりは情けなくて、この寝不足はさっさと
解消しなくてはいけないものだった。
けれど、この声を直に聞きたいという心を隠すことはもう出来そうにない。
「……俺が行く」
そう言って電話を切ると、すぐさまジャケットをつかんで会社を飛び出した。
まだ賑やかな街は明るく、走る自分の体の後ろを色とりどりのネオンの光が流れていった。
新しく迎えた夜が、とてもまぶしかった。