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死亡フラグをへし折る受

「俺、今回の仕事を最後にしようと思うんだわ」
―――だからさ、
そこまで言いかけて彼は急な呼び出しに飛んでいってしまった。
彼の仕事は時間を選ばずで、ベッドで甘い囁きでも交わそうかという時にでも非情だった。
おまけに会うたびあちこちに新しい傷ができていて、常々僕はそれを問い質した。
「お前はいつも馬鹿面で俺を待ってりゃいいんだよ」
なんて言葉で丸めこまれて、いつも僕は黙るしか他なかった。
知っていたからだ。
図体ばかりが大きくあまり気の強いほうではなくて、幼い頃に蟻の行列を踏ん付けたことをまだ気に病むような小心者の僕に心配させまいとしていた彼の心情を。
そんな彼は、結局一年が過ぎても戻らなかった。
僕は後悔している。あの時、彼を引き止めなかったことを。もっと早くに足を洗ってくれと言い出さなかったことを。
―――だからさ、
彼は何を、言おうとしていたのだろうか。
そこまで考えて、チャイムが思考を掻き消した。こんな夜更けに、嫌がらせだろうか。
時計は深夜の二時を指す。
―――暫く放っておけば、静かに――


「帰ったぞ!いるか!!」
ばあんと勢いよく玄関扉が開かれ、蝶番は哀れに外れそうにぷらついている。
顔にまだ治らない傷の残る、けれど最後に見た時よりもずっと愛おしい笑顔がそこにいた。
「……え、えぇ…」
「仕事を終わらせてきた。どうだ!」
「そんな……待ってよ、本当に…」
「無職な俺を養う覚悟はあるだろうな」
僕は近所の迷惑も構わずにおいおいと泣いて彼に縋った。