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目が覚めたら、愛の続きを

 おはよう、ロイ。
 今日は2138年3月9日だ。
 今日は一日風もなく暖かい、いい日だったから、愛犬のジョッシュを連れてドライブに行ってきた。
 海浜公園に行ってジョッシュを思い切り走らせて、俺は木陰のベンチでずっと本を読んでいた。
 君はホラーが苦手だとか古臭いとか言って毛嫌いしているようだけど、やっぱりキングは面白いと思う。
 まあ、春の公園で読むのに適した本かどうかは微妙だと言う自覚はあるけれど。

 君と飼っていたレトリバーのジョーを覚えているかな。ジョッシュはジョーのひ孫のそのまた孫にあたる。
 今年で三歳になるジョッシュはとにかくやんちゃで、僕は振り回されっぱなしだ。
 今まで飼ってきた中でも一番の甘えん坊でいたずらっ子で、この間なんか俺をでかけさせないために気に入りの革靴を庭に埋めて隠してしまった。
 ジョッシュを宥めて叱りつけて、なんとか見つけたんだけど、革靴には歯形がきっちりついていてね。
 俺は結局その日でかけるのを諦めることになった。
 結局、面倒だから歯形は直さずにそのままにしておいた。
 俺があんまり叱ったもんだから、ジョッシュはあの革靴を見るたびにしょんぼりした目でこっちを見るんだ。
 その顔はなんとも言えず人間ぽくて、僕は見るたびに笑ってしまうからジョッシュはすぐにふてくされたりする。
 ドライブの帰りにネットで募集した新しい里親の家に寄って、ジョッシュを預けてきた。
 ジョッシュは新しい里親にすぐに懐いて、里親もジョッシュを気に入ってくれたようだった。
 里親は結婚して3年目の夫婦で、ネットで俺の里親募集の書き込みを見て、メールを送ってくれた人の中の一人だ。
 何度かメールのやり取りをして、直接会って話をした数名の中からこの夫妻にジョッシュを預けようと決めた。
 夫妻はどちらかの疾患で子供ができないらしい。最近ではそういう若者が多いようだ。
 ジョッシュを家族として迎え、俺が今までしてきたように、ジョッシュの子供やそのまた子供とも暮らして行きたいと言ってくれている。
 ジョッシュに子供が出来たら、最初に産まれた子供に俺の名前をつけるつもりだと言っていた。
 なんだか気恥ずかしいし、甘えん坊でいたずらっ子のジョッシュの子供になるのかと思うと複雑な気分だが、まあ悪くはない。
 そして、今一人で君に手紙を書いている。
 俺は明日から病院に入院することになっている。おそらく、もうこの家に戻ることもないだろう。
 君と住んでいたこの家は、君が帰るときのために残しておくことに決めた。
 そこそこいい家だし、ここの地価は君がいたころよりぐんと上がったから、帰ってきたときに売って資金にすることもできるだろう。
 何度も修繕を繰り返したから、君がいたころとは色んなところが違っているかもしれないけれど、安心してくれ。
 君の気に入りのカウチとサイドテーブルはちゃんとリビングの定位置においてあるから。
 定期的に手入れや修繕をするように手配も済んでいる。
 俺の資産から計算すると、何事もなければあと80年はこの家はこのまま保たれることになる。
 80年後には俺の資産も底を尽くだろうから、そうしたら君のコールドスリープも終了することになる。
 もしそれまでに君が目覚めなければ、家を解体し、その跡地に君の墓を作るようにと言付けてある。
 せっかく手をかけた家がなくなってしまうのはつまらないので、それまでには目覚めてくれるとありがたい。 

 君が眠ってからもう43年も経ってしまった。
 正直に言うと、君をコールドスリープさせたことが正しかったか否か、俺は未だにわからないでいる。
 答えは君が目覚めた時に自ずとでるだろうから、俺の決めることではないだろうけど。
 様変わりした世間に馴染めず、勝手に君のコールドスリープを決めてしまった俺を恨むかも知れない。
 知った人が誰もいない世界に放り出され、打ちひしがれるかも知れない。
 君の生死を強引な形で捻じ曲げてしまった俺を、許して欲しいとはとても言えない。
 ただ、どんな逆境においても君の才能と志が折れることはないと信じている。

 思っていたより長い手紙になってしまった。久しぶりにペンを握ったから、手が痛い。
 読み返すと一行も読まないうちに破り捨ててしまいそうなので、このまま封をする。
 最後に、ロイ、どうか生きて欲しい。
 結局君以外の人を見つけることが出来なかっためくらの俺を、笑ってくれ。

 おわり