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ロボットのくせに

※暗い話注意※




ミスターRは優秀なロボット。
ロボットだからといってあのブリキの玩具なんかを想像するのは止めて欲しい。
人工皮膚で覆われた最新型のアンドロイドなんだ。
製作者である私でも人込みの中に紛れてしまえば見つけることは難しいだろう。
これは、そんなすばらしく優秀なロボット、ミスターR のお話。

広い広いその研究所には二人だけ。
金髪に青い瞳の美しい男と赤毛でむっつりとした大男。
人間が便利に暮らせるような食べ物や乗り物、そしてロボットを研究している。
「御主人様、お食事の用意が整いました」
いつも同じ部屋で並んでいるような気がするのに一体いつ準備をしているのか、
美しい男は毎日決まった時間にそう告げる。
研究助手の片手間で執事業、驚くべき優秀さだった。
「放っておいてくれ、後から自分で食べる」
「昨日もそうおっしゃいましたが御主人様は本日午前4時11分25秒まで
食事も休憩も取らずに実験を続けられました。
その上シャワーも浴びずまるで子供のようにベッドに飛び込み…」
「わかったわかった!あと10分したら行くからスープを温めておけ」
「はい、かしこまりました」
にっこりと笑い礼をして去った彼とは対象的に赤毛の男はため息を吐いた。

(ロボットは人間の為に作られ人間のために動く。
故に、一人の人間を愛する事などないと物の本は賢しげに説く。
けれど、それは真実だろうか。
例え100億体ものロボットが誰も一人を愛する事ができなかったからと言って
100億1体目のロボットに奇跡が起こらないと誰が言えるのだ)

白衣のままダイニングへ現れた男を見て彼は少し眉を顰めたが何も言わなかった。
丁寧に礼をして迎え、給仕という「仕事」に集中するようだ。
「御主人様、本日のローストビーフのお味はいかがでしょうか」
「いつもと同じで美味いよ。ロボットは、いつも同じだ。」
「……さようでございますね。
ですが、私の中身が故障するという可能性もゼロではありませんので」
「ゼロだよ」
不意に言いきった白衣の男の顔を彼は訝しげに見返す。
「あんたが故障する可能性なんてゼロだって言ったんだ。
だって、あんたはロボットの俺と違う…本物の”人間”なんだから」


「ミ、ミスターRが!…突然暴走してピーター博士に真実を告げた!」
ありえない事態にモニター室は蜂の巣を突付いた様な騒ぎだった。
そしてモニターの中でも同じ混乱の嵐が吹き荒れている。
正体の無い苦しみをむりやりに吐き出そうかとするように吠え、のた打ち回り、
泣き叫ぶピーター博士を宥め抱こうとする白衣のミスターR。
「違う…ッ!私はロボットだ!人間なんかではない…ッ私は…ッ!」
「違わない。認めてくれ…あんたは人間だ!」

ピーター博士に鎮痛剤が打たれ、ミスターRが強制停止させられたのはその数秒後の事だった。
「ミスターR、君の破棄処分は間違いないだろう。どうしてあんな事をした?」
「ピーター博士を、自由にしてやってくれ」
「何を言う。我々が彼を地獄から救い出したんじゃないか。
親友のロバート氏を自らの実験ミスで死なせたピーター博士は己を責め続けた。
やがて、自分はミスなど絶対にしないロボットだと思い込み感情を殺し始めた。
だから、止む無くロバート氏を模したアンドロイドを与えたんだ」
「そんな夢を見せれば彼が抜け出せなくなることを知っていて、か」
「そうだね、その点は否定しない。けれど博士がそれを自分で選んだ。
我々は彼が研究を続けてくれさえすればそれで構わないのだから」
「頼む。このままでは駄目なんだ」
「ミスターR、心配しなくても良い。
これからは君よりももっと優秀なアンドロイドが博士を守るだろう」
「違う…そんなのは”俺”じゃない。
”俺”は彼をあんなに暗い場所に迷わせたままにしない。俺は……」
「もういい。ロボットの癖に、君は馬鹿だ。電源を落としなさい。」
彼はまるで人間のように涙を一筋流すと目を閉じそれきり永遠の夢に沈んだ。


ミスターRの機能が停止したのと同じ頃、ピーター博士がそっと目を開けた。
「私は…」
「無理に起き上がらなくても良い。食事の最中にお前が急に停止にしてね。
ロバート氏が慌ててここへ運び込んで来たんだ」
「……御主人様に、ご迷惑をお掛けしてしまったのでしょうか」
「心配しなくても良い。部品の交換さえ済めばまた問題なく動けるんだから。
しっかりと働いて恩返しをすればいい」
「はい、わかりました」

(自分はまだあそこで働ける。これは喜ばしい事だ。
なのに、胸の奥が痛んで苦しくなる。一体何の部品なんだろう。
早く、早く、交換してほしい。
胸が痛むなんてロボットのくせに”人間”みたいで不安になる)
彼もまた人間らしく涙を一筋だけ流すとまた目を閉じた。