どうでもよくない

「実は俺、お前の事好きだったんだ」

突然の告白に、頭が真っ白になる。
今の今まで、そんなの全く臭わせなかったくせに。
おまけに、なんでこんなタイミングで言い出すんだ。お前、明日転校すんだろ?
HRの最後にクラスの皆にも、涼しい顔で「お世話になりました」って挨拶してたじゃないか。
今だってそれは変わらなくて、こっちは動揺しまくりで背中やら掌やら汗かきまくりだってのに
お前はいつものように飄々としてて、無様な俺を面白がって観察してる。

そうだよ、こーいう奴だったよ。
いつだってひとり平然として、周りの心配をよそに無茶も平気でやらかす。
実力と同じくらいプライドも高くて、手持ちのカードは絶対誰にも見せない。
自分と他人の間にきっちりラインを引いて、一歩も立ち入れさせない、それがお前だったのに。
なんで、今になってそんな事を言うんだ。

「あ、別に返事とかいらないぜ? どうでもいいし。
 一応最後に言っときたかっただけだから気にすんな、じゃあな」

…何という自己完結っぷり。
そんな捨て台詞を丸きり冷静な顔で言ってのけて、さっさと立ち去ろうとする奴に、
呆れを通り越してムカついた。

「よくないだろう!?」

思わず通りすがりの腕をありったけの腕で掴んでいた。

どうでもいいって。気にするなって。
そんな言い分通るか。
忘れられる訳がないだろう、お前と、お前と同じくらい酷い告白を。
お前は最後にすっきりぶちまけて、逃げて、それでいいのかもしれないけど俺はどうなる。
密かにお前を想って悶々と葛藤した日々までどうでもいいって、切り捨てるつもりか。
許さない。俺自身の想いまで勝手に終わらせようとするなんて、お前にだってそんな権利はない。

「…そうか、どうでもよくないか」
「あ?」
「俺は正直ホントにどうでもよかったんだよ。フラれて当然と思ってたしな。
 けどお前がそう言うんじゃ仕方ない」
「仕方ないって…」
「つきあうしかないだろ? この場合」

…やられた。
にっこり笑う奴の顔が、悪魔に見えてくる。
そうだよ、こーいう奴だったんだよ昔っから!
絶対最後まで手の内は明かさず、いつの間にか相手を自分のペースに引き込んじまう。
分かってるのに、俺は何度懲りずに引っかかって振り回された事か。
けど、そばにいられるならそれでも構わないと思ってしまう俺は、もう末期だろうか。

「電話しろよ。メールも」
「お前からしろよ」
「おー強気じゃん」

けらけら声を上げて笑うその笑顔に、ああ俺たちはこれからも何も変わらないんだろうと
妙な安堵と喜びと、少しの諦めが胸によぎった。


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最終更新:2013年08月09日 01:36