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秘密の関係

この関係は、どうしたって秘密にしなければならないのだ。
だって、ありえないだろう!
まさか自分の教え子と恋人同士になってしまっただなんて。

「先生!」
昼休みの廊下で俺を見つけた庄崎が駆け寄ってきた。
…また背が伸びたんじゃないか、こいつ。
着ている学生服の肩は少し窮屈そうで、目線は俺より頭半分ほど上だ。
その制服の下の筋肉が、実に機能的かつ高性能に完成されてきている事を
俺は知ってしまっている。そしてその肌の感触ですら。
「先生、今度の記録会見に来てよ!
 俺最近すげー調子よくてさ、今のタイムなら多分インターハイ行けると思う!」
よし、ここまでは普通だ。
普通の、担任に部活の様子を話している生徒だ。
記録会が行われる競技場も、ここからたった2駅の場所だから
見に来いというのも不自然ではないはずだ。
「まあ、時間があったらな」
「え~。俺、先生が来てくれる方がやる気出るのに」
…これはちょっと不味いんじゃないだろうか。
いくらなんでも新密度が高すぎる内容だ。しかしここで注意することもできない。
隣の棟にある職員室に向かっている今、
庄崎は金魚のフンのように俺の後ろをついて来ている。
もちろん廊下には他の生徒や教員も多数行き来して、
四方八方に目と耳がある状態だ。
だからこそ、「時間があったら」なんて曖昧な言い方をしたのに。

俺は庄崎が走っている所を見るのが好きだ。
腰ほどまで高さのあるハードルを風のように飛び越えていく所を見るのが好きだ。
しかしそう思うのは俺だけに留まらないらしく、
女子生徒から呼び出されたり、何かを受け取っているのをしばしば目にする。
競技場では歓声すら飛ぶ事がある。
そういう時俺は満員の観客席から叫びたくなるのだ、あいつは俺のものだと。
いつもあの腕に抱かれているのは自分だけだと。
世界中の人間にふれてまわって、自慢して、
そして独占してしまいたい。
決して叶わないことだからこそ、逆にそう思うのかもしれない。

「なぁ先生、見に来てってば!別にいつもヒマだろー!?」
「あーはいはい、わかったわかった」
「マジ!?やった、先生来るんなら俺新記録出せるよ!」
「バカ」

一週間後そのバカは、本当に大会新記録を出して
インターハイ行きを確実にしてしまった。
タイムが電光掲示板に表示され歓声とどよめきに包まれる会場の中、
トラックで息を整えながら庄崎は俺にピースサインをくれた。
とりあえずは、これでいいかなと思う。
堂々と公表できる仲ではないし、罪悪感もないわけではないが
それもあいつが一年後に卒業してしまうまでの期間限定だと思えば、
その先を楽しみに過ごせるような気がした。