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塾講師

「お前さあ」
塾の空き教室で、先生と二人きり。絶妙なシチュエーションに俺が酔いしれていると、
ため息が聞こえてきた。
「俺の話、聞いてる?今、進路指導中なんだけど」
「聞いてる聞いてる」
机に肘を載せて、頬に両手をつけてにっこり微笑む。
わざとらしい可愛いこぶりっこだけど、たいていの大人はこれで許してくれる。こいつ以外は。
「はぁ…。じゃあこの進路調査票の『第一志望:先生と同じ大学 第二志望以下同文』
っていう最高に頭悪い項目書き直せ。ほら、ここ」
素直に調査票と先生が差し出すペンを受け取って、「どこ?」と紙を覗き込むふりをする。
こっそり机の下で靴を脱ぎながら。先生は少し身を乗り出して「こーこ」と指で指した。
髪の毛伸びたね、先生。可愛い。
「なんて書きなおすの?」
「知らないって。お前の行きたい大学名書く……」
先生が異変に気づいて、俺の顔をまともに見た。今日初めて。やったね。
俺は机の下で、先生の脚を上の方へ靴下の爪先でなぞりながらにっこり笑う。
「行きたい大学? 先生の大学名、なんて言うんだっけ」
「ふざけ……」
立ち上がろうとした先生の足を、もう一方の足で踏みつける。
「まだ進路指導終わってないじゃん」
爪先は、先生の内股をたどっていく。机の上にはまだ書き直してない進路調査票。
先生の目がドアの方に泳ぐ。
「駄目だって」
わざと囁くように言って、爪先を目標の場所に押し当てた。
「だってこの状況で、誰かが来て、俺が襲われたって言ったらみんなどっちを信じると思う?」
成人した塾講師のバイトの大学院生と、まだ高校生の生徒。講師の方は、もう息があがってきてる。
「ね?」
「……」
そんな色っぽい目で睨まれるのなんて興奮しちゃう。
「お前に、俺の大学は……無理だろ」
無意識に舌で唇を湿らせて、負け惜しみを言う先生。顔にかかった髪を払いのけたい。
でも俺たちの間には机があって、その距離がどうしようもなくもどかしい。足の爪先を動かしながら、
「塾では手ぇ抜いてんの。先生のクラスにいるために」
にっこり笑ってストーカーじみた台詞を吐く俺に、先生はあきらめたように天井を仰いだ。
手で口元を覆って、それから、急に小さな声で「来年の4月が楽しみだな」って言った。
ああ、最高に幸せ。