プール脱衣所
何とはなしに、ただ覚えてる。
夏休みのプール開放日。
塩素と汗と水の匂いが染み付いた、コンクリの小屋の中の空気。
壁際の錆びたロッカー。
セミ達がうるさく鳴いていた。
素っ裸のままじゃれあいながら、湿ったバスタオルを振り回す。
帰り道に買う50円のチューブアイスを賭けて、よく分からないルールにのっとったチャンバラごっこ。
そういう風にして僕らは、少年の日々を過ごしていった。
あの頃の僕は子どもだったから、いつまでもこうして、ふざけて笑っていられるのだと信じていた。
いつか互いのことさえ忘れてしまうなんて、考えもしなかった。
そして僕たちは大人になった。
中学生になり、高校へ進み、大学に合格し、人生に流されていくうちに、あの頃は確かにきらめいていた
何もかもが色あせて、ほこりにまみれて、いつのまにか消えてなくなっていた。
誰より大切な親友だったあいつの顔さえも、思い出せなくなっていった。
だけどただひとつ、心に焼き付いて離れないのは、あの噎せ返るような更衣室の匂い。
あの中で僕たちは約束をした。
「いつまでも一緒にいよう」とふざけて笑いあった。
でも、それすらももう昔の話。
夏が来る度、何とはなしに、ただ思い出す。
何でだろう、思い出すほど、胸が痛くなる。
最終更新:2013年08月09日 01:29