※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

動かないで

「動かないで」
小さく、抑えた、懇願する声。
え、なになになにが起こったんだ。
動かないでって、俺はただ喉渇いたから冷蔵庫に行こうとしただけなんだけど。
それだけでも離れてほしくないということなのだろうか。
ちょっと待て、こいつどれだけ可愛いんだ!
(顔まで可愛くて言動も可愛いってそんな、)

自分を見上げる必死な顔。奴の両手は俺の腕にすがっている。
正直嬉しすぎるこの状況、しかし混乱して上手い言葉が見つけられない。
やっとのことで捻りだした言葉は結局全く格好良いものじゃなかった。

「え、なに?どしたの」

「コンタクト落とした…」

凄く慌てた顔をしている。
眼鏡家に置いてきたからコンタクトが見つからないと何も見えないのだと言う。
聞きながら、俺はちょっと不貞腐れた気分にならざるをえなかった。
はいはい、そうですよね、分かってました。
俺の片想いです、そんな都合良いことあるわけないですよね神様なんか嫌いだ。
奴は落ちたコンタクトを探している。
何も見えないのは可哀想で探すのを手伝うけど、何かが引っ掛かった。

こいつコンタクトなんてしてたっけ。
前に飲み会かなんかで両目とも凄く良いって話で盛り上がったことがなかったか?

「なぁ、」
訊こうとして振り向くと、床を探してる奴の顔は真っ赤だった。

途端に全てを了解して俺も真っ赤になった。
ああやっぱり言動まで可愛い奴だったよこいつ!
嫌いとか言ってすみませんでした神様!

「ありもしないコンタクトなんか探すのもうやめて、ちょっとお互い腹割って話そうか」

どうしようバレた、もう終りだ、という奴の心の声が聞こえてきそうだった。
そんな怯えた泣きそうな顔しなくても、お前が考えてるようなことにはならないよ。

安心させるために笑って、ずっと言いたかった言葉を口にする。

緊張の糸が切れたのか笑いながら泣き出した顔があんまり可愛くて、もうだめだベッドまでは持ちそうにない、と思った。